「うわぁ、こんな景色が広がっていたんですね。知らなかったなぁ。空も青いし、雲もあって一番好きな天気になって良かったです」

インタビューの場所に選んだのは大山町にある海沿いのカフェ。 秋晴れと日本海の美しい青色のコントラストが見えると、Instagramでショートムービーを発信するRyさんは、目を輝かせた。好きな色は「青」「緑」「白」。自然の中でその色に目が止まり、ついつい惹かれるのだという。

初めましてとは思えない安心感のある穏やかな雰囲気が、そのまま表されたようなRyさんの作品。「普段見ている『当たり前』を撮っている」というアカウントはフォロワー4.7万人。どこか懐かしさを感じるRyさんの映す鳥取の風景は、多くの人の心を揺さぶっている。

なんでもない風景こそ特別

2年前、たまたまInstagramを見ていたときだった。ふと目に止まったのが、音楽と動画を組み合わせたショートムービー。「いいな、こういうの」。それまでなんとなく見ていたSNSが、Ryさんにとって変わっていくきっかけとなった。

「特別写真が好きだとか、映像を作ってみたかったとかそういうわけじゃなかったんですけど、なんか気になって。10年前に一眼レフカメラを買ってみたものの、使い方が難しくって結局置いたままになってしまっていて（笑）。自分にできる範囲でやろうと、スマホで撮影をして作り始めました」

最初は、大山や鳥取砂丘といったいわゆる観光スポットや有名な場所に行っていたが、「何かわからないけど、しっくりとくるものがなかった」。そんな時、Instagramを眺めていて一つの投稿を見て、心を打たれた。

「それが何も特別でもない、ただ縁側で二人座ってスイカを食べているのを後ろから撮っている作品。人がたくさん集まる人気の場所じゃないといけない、有名じゃないと人が見ないんじゃないか、と思い込んでいたが、『あぁ、これでいいんだ』と思えたんです」

そこから普段暮らしている鳥取のなんでもない風景を撮るように。頭の中に思い浮かぶイメージがあり、それに合う音楽やアニメのセリフなどを映像に載せて編集する。自分らしい形が次第にできていった。

変わっていった価値観

「以前はそんなに鳥取のことが好きじゃなかったというか、特に関心もなかったんです。別に風景が目に留まるわけでもなく。でも、日常の風景を撮り始めてから、ものすごくきれいな場所や瞬間があると気づいたんです。そこから自分自身の価値観が変わりました」

「これを撮ろう」と意気込むよりも、いつも撮影は気の向くまま。朝起きて、空を見る。変わった形の雲があれば気になって、雲の動きや時間を考えて出掛けてみる。ぶらぶらと、車を走らせながら、遠くにある大山や日本海、田園風景を見ながら、気になった脇道があったらそっちにハンドルを切ってみる。

「よく行き止まりとか、車が通れるかギリギリの道に入ってしまうこともあるんです。でも、そういう時に初めて見つける場所があり、見える景色がある。そういう偶然の出会いも楽しいし、そっちの方が感動するんです。宝物を見つけたような、そんな感覚になる」

それまで見上げることもなかった空を見上げ、見つめることもなかった田舎の風景を見つめる。自分が育ってきたこの鳥取を、気づけば大好きになっていた。

鳥取の魅力をこれからも発信したい

取材日は、大山町でいくつかあるお気に入りの場所に連れて行ってもらった。
名和神社から名和駅まで遠くに日本海を望む一本道や、誰も来ないような小さな踏切のある田舎道。夏のような青さが残る秋の初めに、Ryさんは嬉々としてスマホを構えていた。

「ついつい夏の作品が多くなってしまいます（笑）。なぜでしょうね。小学生の時におじいちゃんとおばあちゃんに連れて行ってもらった江府町の江尾十七夜のお祭りもすごくワクワクした思い出があって、それも撮ったんです。自然と、どこか懐かしさや切なさや癒されるものを撮っているような気がします」

フォロワーさんからダイレクトメールで「鳥取に行きました」と連絡をもらうこともあり、それがまた励みになっているという。インフルエンサーに選ばれて「なんで自分が！？」と驚いたと笑うが、自分らしくやってみようと思った。

「何もないのがいいのかもしれませんし、何もないと思っていた鳥取にあるものがある。それは自分もそうだったように、心のどこかにある思い出や感情を呼び起こす原風景かもしれないし、それを見ようとする心なのかもしれません。そういう体験をたくさんの人に届けていきたいです」