お昼時の、鳥取県庁の９階にある食堂。鳥取市内を一望できるパノラマの景色が広がり、リーズナブルな価格で美味しいご飯が食べられるとあって、職員や来庁者でにぎわっていた。

 

「２年前の忘年会で知り合って、仲良くなって仕事以外でもスノーボード行ったり、お祭り行ったり、キャンプ行ったり、家族ぐるみで遊んでもらっています」

 

そこに、先輩と楽しそうに話す金井塚千秋さんがいた。

 

もともと首都圏に住みながら全日本空輸株式会社(ANA）の客室乗務員（CA）をしていたが、新しい働き方や生き方を求めて鳥取県庁との兼業に挑戦を決めた。鳥取に移住して２年。ここでの暮らしを楽しんでいる。

コロナ禍で決めた新たな挑戦

幼い頃から旅が好きで、英語にも興味を持っていた金井塚さん。好きなことを生かせるCAを目指すようになったのは自然な流れだった。

 

「もともとは目立ちたくないタイプ（笑）。クラスでも手を挙げないようなシャイな子だったんですが、人と話すことが好きで、人に喜んでもらうことが好きでした。仕事をするなら人と関わりたいという思いはずっとありました」

 

ある時、ハネムーンの乗客夫婦に応対し、「Happy Honeymoon」と書いたプレートをプレゼント。奥さんが泣いて喜んでくれたのは、今でも思い出に残っているという。そんな充実した毎日は、新型コロナウイルスの蔓延で変わった。これまで当たり前のようにできていた働き方や生活も一変し、何かがすっぽりと抜け落ちるような感覚だった。

 

「そんな時、ANAが地方居住と兼業を組み合わせたプロジェクトを打ち出し、それに立候補しました。鳥取へ視察に行き、県の人に案内され、海鮮丼を食べたり、砂丘に行ったり・・・。何より人の温かさを感じる場所だなぁと思って、ここに住みたいと思いました」

 

初めての一人暮らし。初めて来る土地。

何かを変えようと、一歩を踏み出した。

食の美味しさと人の温かさ

CAとしてアメリカやヨーロッパなどANAの国際線や国内線の乗務を月３回ほどこなしながら、県庁でも月７日勤務。主にインスタグラムでの情報発信をしている。気になる場所を自分で調べたり、同僚の人たちに教えてもらったりして取材先を決めるといい、取材日は、旬を迎えた柿栽培が盛んな八頭町へ。柿農家の岡崎ファームさんを訪ねた。

 

「実は、鳥取に来るまで柿があまり好きじゃなかったんですが、鳥取で食べた柿は全然違って、大好きなマンゴーより美味しいかも…って思いました」

 

実際に収穫するのは初めてで、大玉の「輝太郎」を手に嬉しそうだった。

「柿の概念が変わった」というように、鳥取に来てからの驚きはたくさんある。

 

「落ち着くし、どこまでも空は広くて、星はよく見えるし、水もきれい。それにご飯も何を食べても美味しくて驚きました。砂地で栽培されているラッキョウも、自分で漬け教室に参加して自作したんですよ」

 

人の温かさにも、驚いた。

 

「フライトの仕事のために空港に向かっていたら、知らない人が『乗っていくかぁ？』と声をかけてくれて。そんなこと、ありますか？その時はお礼だけ言ったんですけど、人の温かさも鳥取の良いところだと思うんですよ」

見え方が変わった日常の景色

母親が鳥取に遊びに来たときに、鳥取砂丘で夕日が沈んでいくのをずっと眺めた。

そんなに長い時間、ちゃんと見たこともなかったが、
ゆっくりゆっくり、過ぎていく時間が心地よかった。

 

「これまではあまり気づくことがなかったんですが、鳥取に来て改めて自分が過ごしている日常に目をむける時間が多くなって、そこにある景色がいいなぁと思うようになりました。休みの日は岩美町浦富の海や湖山池の水辺に行き、コーヒーを飲みながらぼーっと過ごしています。車から見える山や田んぼの景色も好きだし、通勤中にバスの車窓から流れる景色も好きですね」

 

暑い、寒いしか感じなかったという季節感も、今は自然の色の移ろいを見て、旬の食べ物を食べて四季を感じる。自分が過ごしている毎日のなにげない景色を、ひとつひとつ見つめるようになった。

 

「住んで２年になりますが、仕事で鳥取空港に帰って外に出た時に、全然空気が違うなぁって思います。鳥取のにおいだなぁって。その匂いを感じた時に、住んでいる街ですごく落ち着くし、でも、どこかに旅に来たようにワクワクするんです」