鳥取に移住する人たちにとって、魅力の一つは暮らしの環境だろう。自然の豊かさであったり、人の温かさであったり。そういう環境のもとで、子どもを育てたいという親は少なくない。もともと社会人生活を鳥取でスタートし、一度は前職の仕事で鳥取を離れたものの、やはり鳥取の暮らしが忘れられずに戻ってきたのが、八頭町の地域おこし協力隊としてInstagramアカウント「やずライフ」で情報発信をする中村聡志さん。妻・実穂さんと一緒に三人の子どもたちを育てる親の目からみた鳥取での子育てについて語ってもらいました。
自然と馬に触れながら育つ子どもたち
気温もグッと下がってきた12月上旬。鳥取市街地を遠くに見下ろす空山にある森のようちえん(鳥取県が認定している自然を生かした野外保育を行う園)、「認定こども園 ぱっか」に子どもたちが登園してきた。ぱっかは、空山ポニー牧場を経営する認定NPO法人ハーモニィカレッジが行っていて、馬の世話や乗馬をし、牧場内や近隣の自然環境で子どもたちは伸び伸びと育っている。
「ここは、とても自由な雰囲気なんですよ。親も送りに来てからしばらくずっと話をしていたり、ハーモニィカレッジを手伝いに来ている大学生もいたり、いろんな人たちがいる中で子どもたちが育つ環境があるのがいいと思っています」
と話す中村さん。3年前に年中で長女・芽生さん(8)、年少で長男・智皓くん(6)がぱっかに通い始め、現在は次男・元くん(3)が通っている。現在、芽生さんと智皓くんは小学生になったが、週3回はハーモニィカレッジのフリースクールにも通っている。
ぱっかでは、人の根っことなる部分を育むことを大切にしている。それぞれが自然や動物を相手にすることで感じる力や相手を思いやる感情を養い、自分で考えて自分で決める自主性を重んじるという。この日も、せっせと馬の世話をする子もいれば、他の遊びをする子も。乗馬もその子の気分次第で乗りたければ乗るし、乗らない子もいる。
「自分の子であろうと、他の子であろうと、ここではみんなで子どもたちを育てている感覚があるんです」と話す中村さんも、たくさんの子どもたちに囲まれていた。
自然が当たり前にある鳥取で子育てしたい
前職はNHKでディレクターとして働いていた。2018年から東京勤務(神奈川在住)だったが、その前は大学卒業してから鳥取県が最初の勤務地だった。コロナ禍を渋谷で働きながら過ごし、暮らしと生き方に違和感を覚えるようになったという。
「どちらかといえば暮らしの方を充実させたかった。食のことや日常に感じる自然とか、トータルで見た時の暮らし方というか。神奈川の逗子に住んでいたので海は近かったのですが、なんというか鳥取の自然の近さと違うんです。鳥取はもっと当たり前というか、取りに行こうとしなくても、手に届くところに自然がある感覚があるんです」
地方での暮らしを考え始めたころ、たまたま家族で鳥取に行く機会があり、何気なく行った公園で広々とした場所で楽しそうに遊ぶ子どもたちを見た。「やっぱり鳥取がいいね」。妻と思いが一致し、3年前に移住した。
「前にいた頃は当たり前に感じていたけど、食べ物を作る人の顔が見えたり、山からちょっとずつ雪で白くなる線が降りてくるのがわかったり、そういうことを感じながら暮らせるのは子どもたちにとっても大切だと思ったんです。ついつい仕事に暮らしを合わせなければいけなかったりしますが、僕らは暮らしを優先にした方が子どもを含めて豊かだなと考えました」
今も、友達のお父さんが柿農家で余った柿をどさっと持ってきてくれるとか、子どもたちにとっても身近に「食べる」ということがあり、馬や自然に触れながら「生きる」ということを学んでいる。
感じる力、自分で楽しみを生む力
子どもたちの変化を感じることも嬉しいという。
「もともとの素地は変わらないのかもしれないけど、親以外に関わる大人が増えたし、みんな仲良くなって安心して過ごせているのがわかる。より自分を出しやすくなっている気がしますね」
芽生さんは、工作好き。欲しいものがあっても「買って」よりも先に「作ってみる」が先にくるという。「先日も『バイ貝を食べたい』と言い出して。結構割るのがめんどくさいんですけど、自分で割って食べていたり。たくましくなりましたよ」と笑う。智皓くんも「カレーが食べたい」と言い出して自分で作って、食べさせてくれたことも。誰かにしてもらうのではなく、自分で決めたことを自分でやり遂げる。その姿に夫婦で感動したという。
「なかなか言葉にするのは難しいですけど、どう生きていきたいか、それを親としても実践する姿を見せたくて鳥取に来たのかもしれません。そこに何を見つけて、どう工夫して、楽しむことができるか。自分の幸せを自分で生むというか、感じる力というのが一番大事なんじゃないかと思うんです」
この日、芽生さんと智皓くんらフリースクールの子たちと一緒に山の方へ。木の枝で作ったブランコを順番に乗り、そこにある木でおもむろに遊び出す子どもたち。中村さんも木によじ登り始めると、芽生さんも登ってきた。中村さんが古くなって折れてぶら下がっていた枝を発見すると、「それちょうだい!」と芽生さんが欲しがった。何か遊ぶ道具になるかなと思ったのかもしれない。
折れた木の枝で、楽しもうとする気持ち。それはこうして自然な生き方の中で育まれるのかもしれない。目の前のことをどう捉えるかは、その人の生き方を変える。楽しむ気持ちが、世界を広げてゆく。