Tottori diary

特集
とっとりの食とっとりの文化とっとりの仕事とっとりの子育て

よりローカルな鳥取の文化を発信したい。

昭和期に暮らしに密着した民衆的工藝(鳥取民藝)が栄えたように、鳥取には暮らしから文化が生まれる素地があるのかもしれない。フランスから三朝町にやってきたマリーさん(現在は広島市在住)と、関西から岩美町に移住してゲストハウスを営む黒崎大さんと香織さん夫妻に、鳥取の文化に触れてもらおうと陶芸体験をしてもらった。陶芸が自らの感性のままにものづくりをするように、自分で自分の暮らしをつくろうと鳥取を選んだ二組。文化に触れながら鳥取の暮らしについて語ってもらった。

TEN FORWARD

ゲストハウス&クラフトビール醸造所

TEN FORWARD

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兵庫県神戸市出身。銀行員を経てファイナンシャルプランナーとして独立。コロナ禍に、地方で暮らすことを考え、母の地元である岩美町に移住。地域おこし協力隊として町の魅力発信に努め、現在は「TEN FORWARD」の屋号で、ゲストハウス「TEN」の経営とクラフトビール「IWAMI BLUE BEER」の製造販売を行う。

 
マリー

鳥取メルシープランセス、三朝温泉観光大使

マリー

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フランス出身。2016年に国際交流員として三朝町に着任。6年間、文化体験や情報発信の仕事をしながらフランスと日本の橋渡しを担い、現在は「とっとりメルシープランセス」として鳥取の魅力をSNSなどで発信している。

芸術も、暮らしも余白があること

 「岩美町といえば美しい海を想像する人も多いが、僕は山も好きなのでこの辺りの風景も本当に好きなんですよね」

 と話すのは、移住して年々岩美町に惹かれている黒崎さん。この日は妻の香織さんが好きだという真名焼を訪ね、三人で陶芸を体験した。

 「五十歳を目処に早期退職し、京都から地元の真名に帰ってきてね。仲間にも手伝ってもらいながら窯を作って、一からここで始めたんです。最初は私がやってみせるので、あとは自分で好きなものを作ってください」

 陶芸家の難波勲さんがあっという間に形を作ってみせると、マリーさんと香織さんは平皿を、黒崎さんはぐい呑みを作ることに。和気藹々としながらも、集中して作っていると難波さんが「趣ってわかりますか?」とマリーさんに聞いた。

 「なんでもね、見た人がいろんな感じ方ができるような幅というか、余白を持たすことが大事なんですよ。それを趣っていうんです」

 難波さんがそう言うと、マリーさんはフランスにはそういう言葉がないと言った。

 「日本は全部揃っていなかったり、あえて未完成の部分を残したり。そういう言葉を日本で初めて知ったけど、今日初めて実感したかもしれません」

鳥取で出会った、自分の道の作り方

 「鳥取ではものを作ることが多く、自分と向き合う時間が長かったのかもしれませんね。自分で何かを考え、やり始める人が多い気がします」(マリーさん)

 2016年に国際交流員として三朝町に着任したマリーさん。そこで知り合った飲食店を経営する料理人は、自分で作ったものを提供したいと自ら作物を畑で作り始め、そうかと思えばきのこの勉強を始め、猟師の資格も取り、取った鹿の皮で服を作り始めたそう。

 「やることが多すぎて店が開いている日が少なくなっているんです(笑)でも、そうやって自分で決めてやり出すことっていいなと思うんです。黒崎さんのビールもそうでしょう?」(マリーさん)

 黒崎さんは最初、地域おこし協力隊に着任。その頃に町の魅力を発信するために、棚田米を使ったクラフトビールづくりに挑戦。現在は香織さんとゲストハウス「TEN」を営みながら「IWAMI BLUE BEER」の製造販売を行っている。

 「都会だったらクラフトビールを作ろうとは思わなかったと思います。水も美味しいし、ビールに合う食材もある。まだ知られていない魅力を知ってもらえたらいいなと思ってビールを作っているんです。だんだんと『この食材使ってくれない?』とか、地元の人から言われることも増えてきました」

好きな鳥取を発信してゆく

 マリーさんは、広島市に住みながら鳥取メルシープランセスや三朝温泉観光大使などを務めるだけでなく、広島でも最近はテレビのコメンテーターやレポーターをしてながら鳥取の情報発信に努めている。「広島でも同じ中国地方ということで鳥取の情報を伝える時間を作ったりしていて、これからももっと増やしていけたら」と話す。

 「今は自分ができることを増やしていきたいと思っています。先日、三朝にある三徳山に登るツアーの英語のガイドを頼まれたんです。インバウンドや若者の中で『日本一危ない国宝』という言われ方もされて、そんなこともないのでこれは直さなきゃいけないなって思っているんです。実際、案内した人たちから『ガイドがいることで安心して登れた』と言われて、そういうガイドとしての役割も可能性があると思ったんです」

 岩美町を観光面で盛り上げたいという黒崎さんも、マリーさんの話に賛同した。

 「本当にそう。日本人の旅行の種類ってのが時代とともに変わってきていると思うんです。昔はバスツアーで旗を振ったガイドについていくという時代から、個人がSNSでそれぞれが探していく流れになっていて、今は本当にローカルのことを知っている人がより深い体験をさせてくれることが人気になり始めている。鳥取は発掘しないとわからない魅力も多いから、そういうガイドは必要ですよ」

 インフルエンサーとして情報発信の話で盛り上がった三人。鳥取に暮らし、そこに根付いた文化や生活の魅力を知るからこそ、自分たちが伝えたいことがあるのだろう。黒崎さん夫妻はこれからゲストハウス横の車庫を改装し、飲食店を始めるという。

 人が生きる過程で築き上げてきたものを「文化」と呼ぶならば、より暮らしと生業が密接にある鳥取には濃い文化がある。ガイドブックに載っていない宝物のような情報が、鳥取を知り尽くしたインフルエンサーから伝わっていく。