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移住者インタビュー

目の前のやりたいことやチャンスを1つずつ

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取材前記
 「今の自分に何ができるだろうか」「やりたいことはあるけど1歩が踏み出せない」と不安になることはないだろうか。新型コロナウイルスのまん延や不況などにより、現代社会では余計に生き方に悩む人が少なくない。
 ご多分に漏れず、わたしもその1人である。私は、農業や環境・地域問題に興味があるが、なかなか一人では行動に移せないでいる。やりたいことをちゃんと形にしたいとは思っているのに。

 そこで、もしやりたいことを形に出来る場所があるとしたら?後押ししてくれる土地があるとしたら?

 私は、そこでどんな生き方ができるのか、とても知りたい。

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リノベーションしたご自宅の古民家にてインタビュー(左から森本さん、大原さん インタビュアー:岡本、ひおり)

トカイナカ、琴浦町

 今回はそんな場所で共に生きる大原啓さんと森本萌さんに、どんな生活をしているかお話を聞きに伺うことにした。そして、たどり着いたのは白バラ牛乳で有名な大山の麓。鳥取県琴浦町である。
 スーパーやコンビニを脇に抱えるアスファルトをたどっていくと、住宅地が広がり少し遠くに緑が見える。庭木で小鳥が鳴いている。なんだかその風景からは、THE田舎!というわけでも都会というわけでもなく“トカイナカ”という印象を受けた。“トカイナカ”とは、都会と田舎の真ん中という意味を持つ言葉である(参考:Webサイト「複住スタイル」など)。
 さて、そんなことを考えながら私は初取材へと向かった。大原さんと森本さんは、大学生のときのサークル活動で知り合い、以来ずっと付き合い続けている仲だそうだ。

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平日は鳥取市にあるIT企業で働く森本さん(森本さん提供)

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収穫したスイカを手にする大原さん(大原さん提供)

支援の土台があったからこそ就農できた

 大原さんは琴浦町で新規就農をされた方でスイカやミニトマトを主に育てている。幼い頃から農業に興味を持っていたそうで、農学部への進学をきっかけに本格的に農業への道を歩み始めたという。大学では鳥取県中部で地元の農家の方と一緒に稲作を行う学生団体(三徳レンジャー)に所属。卒業後は飼料作物栽培や九条ねぎ栽培の会社を経験し、2年前に琴浦町へ移り住んだ。琴浦町を選んだのは、「新規就農者への支援が手厚いから」。ゆかりのある鳥取県内で新規就農ができる移住先を検討した際に、この下地があったからこそ琴浦を選んだ。
 琴浦町での就農支援プログラムを2年間こなし、2022年の2月から独立して、就農したと話す。将来に向けてのビジョンなどを聞いてみると、今は現在育てているミニトマトとスイカの栽培を極めたいそうだ。新しい作物へあれこれ手を出すのではなく真っ直ぐと道を定めているところに、大原さんの軸を感じた。
 やりたい事が固まっていると芯がぶれないものなのだなぁ、とも。なんだか羨ましく思ってしまった。その後もスイカの話をする大原さんの顔はいきいきとしていて、接ぎ木や台木、スイカの味を決めるのは結局……と沢山の農業話に花を咲かせてくれた。

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ハウスではミニトマトを栽培している(大原さん提供)

本業の傍ら趣味のように活動する

 鳥取市のIT企業で働く森本さんにも同じように将来のビジョンを聞いてみた。

 「社会の変化は早いから十年後の未来や、将来なんて長いスパンでは考えられない。ただ今やりたいことや今あるチャンスを1つずつ掴んでいくだけかな」

 なんてかっこいいんだろう!

 その言葉通り、森本さんは本業の傍らで琴浦町内で古民家ゲストハウスの開業へむけて日々行動している。ゲストハウスは、農作業の人手不足と農業の法人化の難しさから、その間を解決する事業として考えているそうだ。近年話題になりつつある農業ボランティアやボラバイトの方に、より気軽に琴浦の農業の活動に参加してもらうための仕組みづくりの一歩だそう。
 現在はIT企業で働きながら、それと並行で複業での取り組みにも精をだしている森本さん。しかもそれをなんてことない趣味のように話す。なんてパワフルなのだろうと思った。
しかし

 「私だけの力じゃないんですよ」

と森本さんは続ける。
 それは「地域」というコミュニティの力。大原さんも仰っていたように、ここには大きな下地がある。都会ではない鳥取だけれど、その代わりに差し伸べられる人の手は沢山あるし、コストもそんなに掛からない。

「自分でなにかやりたいなという人にはすごく生きやすい地だよ」

とお二人は声を揃えていた。

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自宅の古民家もたくさんの人たちに助けてもらいながら自分たちでリノベーションした(森本さん提供)

やりたいことを後押ししてくれる地域

 お二人共、最初は特に鳥取に住みたいとは思っておらず、偶々、進学先として選んだ土地だった。だけど、今はこの地で働くこと、生きることを楽しんでいる。元々、自分に何ができるだろうか、どうやって社会でうまく生きていけるだろうか、と悩んでいた森本さん。どうしても農業をやりたい気持ちがあって紆余曲折してきた大原さん。
 誰だって、焦っていると“自分にあってることやりたいことって何だったっけ”となってしまう。そんな中でも、こうして毎日いきいきと暮らす日々をつかみとるきっかけはひょんなところで掴めるかもしれない。

 「なによりこんな広い家に住んでたら都会戻れないって」

と笑うお二人の、楽しく生きる生き方を少し味わった。やりたいことを後押ししてくれる土地って大事だ。

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取材の合間にいただいたスイカが本当に美味しかった

取材を終えて

 わたしはまだ大学1年生。自分に何ができるだろう。何がしたいのだろう。不安はまだまだ湧いてくる状態だけれど、ここ琴浦町で生きるという1つの選択肢が出来たかもしれない。ここには支えてくれる環境も、未踏の分野もある。人が集まるところでは、何でも先に誰かがやっているだろう。逆に人手不足と言われている地方だからこそやりたいことがやれる。何をここでやってやろうか、という気になる。

 この記事を読んでくれた皆さんには、今住んでいるところや状況だけで、やりたいことや自分自身の生き方探しを諦めないでほしいと思います。なぜなら、自分自身のやりたいことをやるという気持ちさえあれば、自分らしい生き方を実現している人が他にもいるのだと知ってきっとどこかへ進めると思うから。