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移住者インタビュー

働き盛りにUターンしちゃっていい

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「僕の強みは田舎に住めることだと思うんですよね」

 大河内さんのこの言葉が非常に強く頭に残った。
 田舎に住めるということは、田舎民にとってはごく当たり前のように感じるかもしれない。広島の田舎で育ったわたしもそう感じた。しかし、実際に都会に出たり、出なくても大学生・社会人となって、都市部の方と交流するようになるにつれて、田舎に住める環境というものがどれほど貴重かわかるようになる。

 当たり前が当たり前ではない、そんなことを意識しながら読んでみてほしい。

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立派な古民家のご自宅でお話をお聞きした

大河内さんって何者?

 大河内さんは元々鳥取県の琴浦町で生まれ育ち、大学進学を機に大阪に出て、東京の会社の人事部で働いていた。それが、現在は「葡萄農家」兼「フリーの人事コンサルタント」として琴浦町で仕事をしている。

―岡本
 就職のタイミングで鳥取に戻ってくる気はなかったんですか?

―大河内さん
 戻ってくる気はなかったな。仕事がないし、選択肢がそんなないので。それが、新卒で就職した会社の人事として働く中で、ふと自分のこれまでの人生における選択肢の少なさに気づいたんですよね。それで、その選択肢って今なら増やせるかもと思って、地元である琴浦町にUターンして、今の暮らしを選びました。

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ブドウ畑にも案内してもらった

 

選択肢はこれから増やせる

―岡本
 なるほど。具体的にはどのように選択肢の少なさを実感されたのでしょうか?

―大河内さん
 例えば高校生の時に、自分には留学という選択肢はなかったな。それは田舎だからかわかんないけど、今は色々なものがネットでいろんな情報が見れるから変わってきたとは思うけど、それが当たり前となるような社会が田舎で実現できたら面白いのかなと。

 琴浦に住んでいた頃は、留学のような選択肢は見つけることができなかったからこそ、選択をできる環境を作ってあげたいと思った大河内さんは、まずは農業という十分改善の余地がある田舎の主産業から変えていき、身近なところから凝り固まった考えかたや田舎の鎖を断ち切り、将来的に子どもたちがいろんな選択肢ができるコミュニティを作りたいと語る。

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冷静だがアツい語りぶりに惹きこまれる

でも、忙しいのでは?

―岡本
 農業をやりながらフリーで人事コンサルの仕事と忙しそうですが、実際はどんな生活をされているのでしょうか?

―大河内さん
 朝5時から11時までは農作業。その後昼食や昼寝をして、13時から夜まではリモートで人事コンサルの仕事をするという生活です。自然相手の農業をしているので、冬場以外はまとまった休みはほぼないけど、今の働き方・暮らし方には満足してますね。

4_人事コンサルの仕事では、学生のキャリア支援にも取り組む(大河内さん提供).jpg

人事コンサルの仕事では、学生のキャリア支援にも取り組む(大河内さん提供)

 大河内さんがこのような暮らしができているのはやはり、東京でのコネクション作りや、色々な世界を見てきたことの成果なのだと思う。鳥取にずっと住んでいたとしたら、このような経験や考えというのは出来なかったのではないだろうか。

「田舎に住める」は強み

 冒頭の言葉に戻ろう。「田舎に住める」ということが自分の強みだと大河内さんは言う。都市部出身の人が、大河内さんのような生き方をしたいと思っても、まずは物件探しや地域コミュニティに入り込む必要がある。そこにハードルの高さを感じて諦めてしまう人もいる中で、Uターンとして地元に帰ってこれるということは確かに強みなのかもしれない。

 リモートでもできることが増えている近年、都市部とのコネクションが出来ていれば、田舎であっても潜在的には機会は均等である。都市部での仕事を持ちながら30代で地元に帰るという大河内さんの選択は非常に興味深い。

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大河内さんが育てた収穫間近の巨峰(大河内さん提供)

 

大河内さんの生き方から、田舎に住めるわたしが考えるUターンの可能性

 都会に出た地方出身者がUターンで帰ってくることはある。でも、“定年退職後の親の面倒をみるために帰ってくる”といったように、「やりたいことを求めて」というより、「必要に迫られて」戻ってくるということも多いと感じる。やはり、都会に住む方が、明らかに利便性が高く、仕事もあって、子育てもしやすいのでは?と思っている人が多いのではないだろうか。

 では実際に子育ても、日々の生活も都会の方がいいのだろうか。大河内さんのお話を聞き、自分のこれまでの経験を振り返ると、どちらも一長一短な気がする。たしかに、都会ではお金さえあれば何不自由なく暮らしていけるのだろうけど、田舎ではお金がなくとも、食料がなくとも、地域住民のお裾分けなど周りの支えによって、十分な暮らしをすることができる。

 人間誰しも欲深いもので、“足る”を知らない限り満足することはないのかもしれない。でも、田舎では半強制的に“足る”を知ることができる。買い物も遊びも、限られるからこそ、今ある環境に感謝をし、生きていくことができるのかもしれない。この環境で育った子は、感受性豊かな人間らしい人間に育つと思う。「田舎に住める」能力をすでに持っているUターン者となればなおさら、多くのメリットを感じやすいはずだ。

 昨今、コロナウィルスによるテレワーク化により、“田舎疎開”とでも言うべき移住が推奨され始め、世間一般的にも地方の見方と言うのが改められ始めていると感じる。

 しかし、実際にIターン移住してくる人はまだまだ少ない。当然だ。田舎の閉鎖的な側面や、交通・生活の不便さという現状を叩きつけられ、断念する人もいるというのだから。

 一方で、「帰る田舎」を持っているみなさんはどうだろうか。帰る環境も用意されている状態で、まだ帰るのを渋りますか?(笑)

 高齢になって田舎に帰ってきても、それこそ、長く離れていた分コミュニティに入ることの難しさや、疎外感を味わったりして、真に地元で楽しむことはなかなかに難しいかもしれない。

 一度出ると、気づかぬうちにだんだんと“よそ者”になってしまうのかもしれない。いったんそうなると、地域に溶け込むことは、場所によっては難しいかもしれない。しかし、鳥取は「来るもの拒まず」の文化をとても感じる。大河内さんのように「田舎に住む力」を持った出身者たちが、Uターンして時代の波に乗って選択肢を増やし、新しい田舎をつくっていっている地域・コミュニティが生まれてきたら、Iターン移住者も入りやすくなるに違いない。

 広島県の山あいに実家のあるわたしは、大河内さんのような方がいる琴浦町が羨ましい。

自分も近い将来、Uターンして地元に選択肢をつくる大人になりたいと思う。

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最後にブドウ畑でパシャリ(右から大河内さん、インタビュアー:岡本、横田)