「まあ、だいたいプリン300種類以上は、食べ比べましたかね~」
サラッと言い放たれた衝撃の一言。
1年1事業を目標に、鳥取を代表するプリン店「Totto PURIN」など、複数の事業を手掛ける“川好き”の起業家、株式会社omoi代表取締役の川村諒志さんの一言だ。私にとって強烈だったのは、商品に対するそのこだわりの置き方と、やり始めようとしたことをほとんどあきらめなかった根性だった。
事業について語る(川村さん提供)
何をしなければいけないのかわかっているのに、動き出せない。
ワクワクしてやりたいことがあったのに、日常の喧騒とともに、いつの間にか消えてなくなってしまう。
この記事は、そんな日々を過ごしている人にこそ、読んでもらいたい。
鳥取という地方で事業を始めるということ
川村さんが代表取締役を務める株式会社omoiとは、「地方で豊かに」をコンセプトに、鳥取でローカルコンテンツを運営プロデュースしている会社である。1年1事業を目標に、現在3年目6事業を果たしている。つまり、彼はプリン会社の代表をしているだけの方ではない。プリン屋だけでなく、大山町の氷を使用したかき氷屋『さんかく氷』、大山町の牛乳を使った生チョコレート専門店『さんかくショコラ』、自然豊かな鳥取県のきれいな空気や水を利用した美容サロン『The SLIM LIKE』など多くの事業を展開している方なのだ!
お店の前でスタッフと(川村さん提供)
なぜこの鳥取という地方を観光で、ビジネスし続けているのだろうか。
「観光は地方で生き残る数少ないビジネスだと考えています」
鳥取という土地にしか出せない商品を鳥取のみならず他県の人にも買ってもらうことで、全員が幸せになるビジネスだ、と川村さんは語る。また地方は、「現状を何とかしなくてはならない」という共通の課題意識があるため、他の起業家が“ライバル”ではなく、同じ目標へ向けた仲間になる。また、そのために全く違うテーマの活動者の方とも、同じ目線でビジネスについての話ができるそうだ。
主体性が求められ、まだまだ起業という文化において発展途上の鳥取県は、これから活動を始める若い人達にはチャンスでしかない。川村さんは、この鳥取県という地方に可能性を見出している。
同じ志を持つ経営者仲間らと(川村さん提供)
初めての鳥取、tottoプリン誕生秘話
鳥取砂丘の前に堂々とお店を構える川村さんのtottoプリン。
世にも珍しい、鳥取砂丘の砂をイメージして作った粉末カラメルをかけていただくプリンが大好評だ。鳥取の象徴であり、観光客は必ず訪れるであろう場所、鳥取砂丘。砂の丘を登りきった後に一番美味しくなるようにと、試行錯誤の末にできあがったとっておきの逸品だそうだ。
インタビュアーとして、これは食べないわけにはいかない。(断じてプリンが目当てではない。そう、これは記事のためだ。)
見るからに美味しそうな逸品だ(川村さん提供)
さっそく一番オーソドックスな砂プリンをいただいてみた。もちろん砂丘の上で。
ずっしりとしたプリン瓶のふたを開け、カラメルをかけずに一口。とろっとろで、重みのあるクリーム感が口いっぱいに広がる。それだけでもおいしいのに、粉カラメルをかけてまた一口。舌にのせるとほろっとほどける絶妙な加減の苦み。すぐに食べればカラメルがシャリッと音を立てて溶けるように消え、バニラの甘い香りが鼻を抜ける。実は私、元来カラメルがあまり得意ではなかったが、このプリンは、驚くほどツルっと食べきってしまった。
“おとぎ話を現実に” 川を愛する川村さん
「スタートで完璧な100%なものなんて作れることはありません。だから僕は、届けるものはギリギリ今の自分の出せる納得した形で作るようにしています。」
手掛ける商品ブランドからお気づきかもしれないが、川村さんの手掛ける事業に共通するこだわりの1つに“鳥取県でしか出せないものを作る”というコンセプトがある。その眼差しの先には、どんな世界が見えているのだろうか?
「僕、川の近くに小さな村をつくることが夢なんです。しかも、小さいころからの夢。だから名前も川村なんです(!?)」
omoiの未来。それは、毎年1つずつ増えていく事業を、1つの場所に合わせた「村づくり」なんだそうだ。
生産者との会話も新たな商品開発のヒント(川村さん提供)
川村さんの本当にすごいところは、とてもシンプルだと思う。ずばり夢を忘れないことだ。
「僕は、最終的な目標を常にもって事業に取り組むようにしています」
そう話していた川村さん。そしてそれを社会に還元しようとしている。そんな目標に向かう川村さんの大きなエネルギーに、人は引き付けられるのだろう。
取材後記
子供のころになぜかやりたかったこと。友達と冗談交じりに言ったこと。
自分で勝手に、本気にすることではないと、諦めてしまってはいないだろうか?おとぎ話のようなそんな夢を、自分ももう一度見つめ直してみよう。
それが川村さんと出会って、私の出した答えだ。
取材前、おいしそうなプリンにワクワク