水木しげるロードにある河童の泉は、好きな妖怪に出会えるお気に入りスポット。右から水野香織さん、息子の芯(しん)くん(1歳)、蕗(ふき)くん(3歳)、夫の雄斗さん。
さかなと鬼太郎のまち 境港でのびのびと子育て
水木しげるロードに鬼太郎列車など、まちの至るところに妖怪が現れる境港市。海を身近に感じられるこのまちに2021年4月、水野香織(かおり)さん(35歳)は大阪府から家族で越してきた。田舎暮らしに憧れていたのは、夫の雄斗(ゆうと)さん(31歳)のほうだった。大阪府出身の香織さんは、どちらかといえば便利な都会暮らしを希望していたが、妊娠をきっかけに、子どもをのびのび遊ばせてあげたいと移住を決意した。
「境港には祖母が住んでいた空き家があり、立地がよく、夫も気に入っていました。ただ、私は車の運転をほとんどしたことがなくて、育児や仕事のことなど、暮らしていくのは不安でした」と、香織さんは振り返る。
実際に移住してみると、近所の人が家の修繕を手伝ってくれたり、野菜を届けてくれたりと、孤独や不安を感じることはなかった。自宅から歩いて行けるところに子育て支援センターがあるなど、子育て環境も充実している。
「施設のなかはとてもきれいで、スタッフの方の対応もとてもていねい。裸足で走りまわれる芝の園庭もあるし、おもちゃもたくさん。同じ年の子どもを持つ知り合いができたのも、うれしかったです」
水木しげるロードを散策する水野さん家族。妖怪のブロンズ像やラッピングバスに、子どもたちは興味津々だ。
旧幼稚園を活用した子育て支援センター「ひまわり」は、絵本やおもちゃ、遊具が充実。土日も利用できる。
自由に個性を表現するアート活動にも意欲
22年1月から、香織さんは保育士の仕事に復帰。仕事の合間には絵を描き、アート活動も再開した。
「20代半ばから絵を描いています。ポストカードやステッカー、Tシャツにしてハンドメイドのイベントに出店していました。大阪ではアートに触れる機会が多くありましたが、こちらでは芸術に触れる機会が少ないので、子どもたちのためにも自分が発信していこうと考えるようになりました」
市民図書館のオープンに合わせて企画された音楽イベントでは、初めてライブペインティングに挑戦。図書館をイメージして、ヒツジをモチーフにした作品を描き上げた。子どもにも絵を通して個性を表現する楽しさを伝えていきたいと、自宅には絵の具で汚しても大丈夫な土間スペースを計画中だ。「今後も地域の子どもたちが自由な想像の世界を広げていくきっかけをつくれたら」。そんな思いで、何か新しいことを模索している。
「このまちには多種多様な妖怪がいます。だからなのか、みんなと違っていても否定されない雰囲気がいいなと思います。子どもたちも鬼太郎が好きで、当たり前のように多様な妖怪を受け入れて、それをいいねと言える環境。そんな気持ちを持ってくれるような絵を描いていきたいです」と、ほほ笑む香織さん。境港市を舞台に新たな作品が生まれそうだ。
境港市在住のシンガーソングライター・奥田さやかさん(写真左)の歌に合わせて、香織さんが絵を描くというライブペイントを「境港おさかなロード大漁祭」で実施。
香織さんが描いた作品たち。どれも暖かみがあり、さまざまな人や動物たちを応援する力強さも感じられる。
2022年7月にオープンした複合施設「みなとテラス」。子どもと一緒に楽しめる市民図書館などがある。
図書館開館時のライブペイントで描いた香織さんの作品(右)。
境港市のここが好き
全6種のラッピング車両が運行されている鬼太郎列車
境港市(さかいみなとし)
日本有数の漁獲量を誇る「境漁港」、重要港湾の「境港」、国際空港の「米子鬼太郎空港」の3つの港を有し、豊かな水産資源や水木しげるロードをはじめとする観光資源も豊富。羽田空港から米子鬼太郎空港経由で約1時間20分。
移住相談員のよもやま話
境港市の最大の水産イベントが「境港水産まつり」。マグロの解体ショー、魚の詰め放題、セリ体験、乗船体験など、子どもから大人まで楽しめるイベントが盛りだくさん。特に好評なのが、カニ汁とベニズワイガニの無料振る舞い。水揚げされたばかりの立派なベニズワイガニを使い、地元の方がたが真心込めてつくるカニ汁は絶品です。(境港市担当者より)
地域振興課の竹本夏樹さん(左)と都市整備課の邊牟木(へむき)美穂さん。
お問い合わせ:境港市地域振興課 TEL:0859-47-1024
宝島社発行「田舎暮らしの本」2022年12月号掲載