オープンした「江見はりきゅう治療院」の前で、岡田悠作さん(写真右)と妻の木綿子さん(左)
Instagram:@tottori_emi
起業しやすい環境で夫婦で鍼灸院を開業
レトロで愛らしい車両の若桜鉄道が走り、カキやナシなどの果物が豊富な八頭町。スズキの大型バイク「ハヤブサ」の聖地・隼駅近くに、閉校した小学校をリノベーションして誕生した複合施設「隼Lab.」がある。
その一角で「江見はりきゅう治療院」を営んでいるのが、大阪から移住した岡田悠作さん(36歳)・木綿子さん(36歳)夫妻だ。
悠作さんは隣町の若桜町出身。実はホッケーが盛んな八頭町。悠作さんも高校時代は八頭町にある高校のホッケー部で活躍し、卒業後も社会人ホッケーの活動を続けながら、母校のホッケー部のトレーナーとして高校生をサポートしてきた。
このトレーナー活動を機に、鍼灸師の資格取得を目指し大阪の専門学校へ進学。修業期間を経て、2023年に八頭町地域おこし協力隊となってUターンした。
「地元でホッケーを続けたかったので、鳥取に戻りたいという思いがありました。長年トレーナーとして関わってきた八頭高校の男子ホッケー部のサポートも続けられ、今年は国民スポーツ大会で初優勝できました」と悠作さんはうれしそうだ。
大阪出身の木綿子さんは鍼灸師として12年間、師匠と兄弟子とともに鍼灸院を営んでいた。
専門学校の教員も務め、鍼灸の勉強会で出会った悠作さんと20年に結婚。移住当初は教員を続けていたが、その後退職して23年10月に鍼灸院を開業した。
「伝統的な鍼灸施術を充分に提供できていない地域で、東洋医学の普及活動をしたいと思っていました。痛いところを治すだけでなく、心の疲れなども改善できるように、全身を診ながら針を打って調整しています。まずはたくさんの人にこの治療院を知ってもらいたかったので、地域の人が集まる『隼Lab.』で開業しました」と木綿子さん。
「隼Lab.」は、カフェやショップ、ワーキングスペースがあり、起業した人や地域団体が入居している。経営塾や大人のための趣味の講座なども開かれているため、経営のノウハウを学んだり、さまざまな人と交流したりすることができる。木綿子さんは、鍼灸院内にオーガニック食品の量り売りゼロウェイストショップを併設し、ゴミや廃棄物を減らすように努めている。また、映画の上映会や地域のイベントへの出店など、興味のあることを次々と実現している。
からだの気の流れやバランスを見る木綿子さん。施術では、脈診などで全身を診てから治療にあたっている。
悠作さんはホッケー部の大会にも遠征。ストレッチやテーピングなどで、選手の活躍をサポートしている。
「隼Lab.」に皆さんと。旧小学校を活用した「隼Lab.」は、カフェやオフィスが入居するコミュニティ複合施設。
毎週火曜は利用者がコーヒーを飲みながら交流する。
リンゴ園の手伝いも楽しみ 心も暮らしも健康に
現在、悠作さんは協力隊として、バレーボールやフットサルを楽しむ会の企画や八頭高校ホッケー部のトレーナーなど、スポーツ振興と地域の健康増進の活動をしている。今年度からは、鍼灸院の午前診療を悠作さん、午後は木綿子さんが担当することに。
「協力隊1年目には地域の人とつながるために、『はっとうフルーツ観光園』でリンゴ園の手伝いをしていました。今年は農作業をする機会が減りましたが、夫婦で授粉や収穫など、1年を通してお手伝いさせてもらっています。旬のフルーツをたくさん食べられるのも八頭町のいいところです」(悠作さん)
大阪では午後9時半まで働いていたという木綿子さんは、「暮らしが大きく変わりました。豊かな自然があって、広い景色が多く、閉塞感がないところが好きです」と、新たな暮らしにも慣れてきた様子だ。
今後は自宅兼鍼灸院の開業が2人の夢。悠作さんは、ストレッチやテーピングの指導ができる強みを活かし、ホッケー部のサポートも続けたいと話す。
「施術に来てくださる皆さんが、自分のことを大切にできて、心も暮らしも健康になるような、地域に愛される店を目指しています」(木綿子さん)
町内を散策しながら立ち寄った若桜鉄道の隼駅。朝は山の景色を、夜は星を見ながら2人で散歩するのが日課。
「はっとうフルーツ観光園」でリンゴを収穫。1年を通してリンゴ園の手伝いを夫婦で楽しんでいる。
八頭町(やずちょう)
鳥取県東部に位置する人口1万6000人の町。1000㍍級の山々に囲まれた町の中心を若桜(わかさ)鉄道のレトロな列車が走り、豊かな自然と懐かしい風景が残る。特産の「花御所柿」をはじめ、ナシ、リンゴなどの栽培も盛ん。県庁所在地の鳥取市に隣接。大阪駅から郡家(こおげ)駅まで特急利用で約2時間20分。
お問い合わせ:八頭町企画課地域戦略室
☎:0858-76-0213
宝島社発行「田舎暮らしの本」2025年1月号掲載