ミニトマトのハウスで、作本さん家族。
左から、妻の未奈美さん、哲也さん、哲也さんが抱いているのが磨紀(まこと)ちゃん(2歳)、一彩(ひいろ)ちゃん(6歳)、未理(いまり)ちゃん(4歳)、笑鈴(えりん)ちゃん(12歳)、理仁(りひと)くん(9歳)。
都市機能も整ったまちでミニトマト農家に転身
人口約14万人を擁する鳥取県西部最大のまち、米子市。
日本海や中海、大山に囲まれた自然豊かな地域だ。
作本哲也さん(41歳)が生まれ育った東京から米子市に移住したのは13年ほど前のこと。妻の未奈美さん(37歳)との結婚がきっかけだった。
「米子市は妻の出身地で、ゆくゆくは鳥取に帰りたいと聞いていました。鳥取といえば砂丘くらいしか思い浮かびませんでしたが、訪れてみると、人が多い都会よりも自然の多い鳥取のほうがのびのびと暮らせそうで魅力的に思えました」
結婚して1年後に移住したが、すぐに大雪に見舞われ、遊びに来ることと住むことの違いを痛感した哲也さんだったが、ショッピングモールや百貨店、大きな公園、温泉、海に山、近くに何でも揃っていることに驚いた。「何もないと聞いていたけど、意外と都会だと思いました。そのうえ、身近に豊かな自然がある。最高ですよ」
移住後、いくつかの仕事を経験したのち野菜の直売所での仕事に就いたことをきっかけに農産物の生産者と親しくなった。
畑で収穫体験したり、野菜をもらったりしているうちに自分でもつくってみたいと思うようになり、農家に転身。農業法人で米やトマトの生産に関わりながら、機械の使い方や栽培方法を学び、新規就農の支援制度をフル活用して5年前にミニトマト専門農家になった。
「農業普及指導員さんがいろいろ手伝ってくれて、栽培面でも資金面でも支援していただきました。ミニトマトを選んだのは、赤くなる過程を見ることが楽しみだから。トマトは価格が決まっていないので、自分のブランドをつくっていけると考えました」
現在は、幅7・2メートル、奥行約50メートルのハウス3棟で、一年を通して収穫できるように栽培し、2日に1度、約200袋を市内の直売所などに出荷している。
栽培方法はインターネットも参考にしながらプランターに植える隔かく離り栽培を導入。複数の品種を植えて、よりよいトマトを育てる日々だ。

3棟のハウスで一年を通してミニトマトを出荷している。「枝に実った状態で赤くして収穫するほうが甘みがあって味がよくなるんです」。

作本農園のハウス

数種類のミニトマトを栽培している
ご近所さんとは野菜を交換する仲。この日は未奈美さんの同級生の実家でもある中島さんの家でゴーヤとミニトマトを交換。
四季を感じて楽しむ 家族の時間を優先
0歳から12歳までの6人の子どもを育てている作本さん夫妻。
子どもたちにはいろいろ体験させてあげたいと、家族の時間を大切にしている。
春はサクラの名所巡り、夏は海やプール、秋は大山の紅葉狩りや梨狩り、冬はスキーや温泉と、四季を楽しみながらイベントにもよく出かけるそうだ。
未奈美さんが子どものときに通っていた老舗の駄菓子屋さんに、おやつを買いに行くのも楽しみのひとつ。農園の近くにはヤギとふれあえる「とっとり自然環境館」もある。
自宅から歩いていける「実重(さねしげ)菓子店」は、昔ながらの駄菓子屋さん。
手ごろな価格のお菓子がたくさんあり、子どもたちも大好きな場所だ。

「米子がいな祭」で披露される万灯パレード。
作本家では4人の子どもたちが万灯や鼓隊クラブ、よさこい、ダンスに参加している。

鳥取の豊かな自然と再生可能エネルギーの活用などを紹介している「とっとり自然環境館」。
飼育されている3頭のヤギに、餌をあげるのが子どもたちの楽しみ。
毎年市内で開催される夏祭り「米子がいな祭」では、子どもたちが万灯や鼓隊クラブ、よさこい、ダンスに参加。夏休み中は毎日練習もあるので、送り迎えに大忙しだ。
「子どもと一緒に過ごしたいという気持ちが強かったので、仕事の時間をとりつつ、家族の時間を優先して、これからも楽しく農家を続けていきたいです」
今後の夢は、自分のように農業を楽しみながら仕事にする人を増やすこと。
自由度の高い農業は哲也さんにとって天職だった。農業人口を増やすことは、人口最大の東京から最少の鳥取へ移住してきた哲也さんは自分の使命だと感じている。
米子市(よなごし)
鳥取県の西部に位置し、北は日本海、西は中海(なかうみ)に面し、南東には中国地方最高峰の大山(だいせん)を望む。海岸沿いには皆生(かいけ)温泉がある。
米子城跡をはじめ、町家や小路が点在する歴史ある町並みも魅力だ。
羽田空港から米子鬼太郎空港まで約1時間20分、空港から市街地まで空港連絡バスや電車で約20分。
宝島社発行「田舎暮らしの本」2024年11月号掲載