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移住者インタビュー

協力隊として活動した境港市で起業。伝統の和綿で“オーダーシャツ”づくり

希少な国産綿に魅せられ地域おこし協力隊に応募

鳥取県西部の弓ヶ浜(ゆみがはま)半島に位置する境港市は、東は美保湾(みほわん)、西は中海(なかうみ)に面し、三方が海に開けたまちだ。水木しげるロードがある「さかなと鬼太郎のまち」で、年間約300万人が訪れる。そんな境港市で、じつは希少な農薬・化学肥料不使用の和綿が栽培されている。綿の名は「伯州綿(はくしゅうめん)」。江戸時代に栽培が始まり、弾力性と保温性に優れた高品質な綿は、江戸後期から明治初期ごろの最盛期には全国的に有名な特産品だった。2017年9月に境港市の地域おこし協力隊として着任した仲里心平さんは、伯州綿に魅せられ、今年の秋にはこのまちで伯州綿のオーダーシャツの製造・販売で起業する。

神奈川県横浜市出身の仲里さんは、大学卒業後に東京のアパレル会社で服飾デザインに携わるなか、「服の素材を勉強したい」と一念発起し、山梨県で織物職人になった。そこで知ったのが、仲里さん曰く「素朴でやわらかな風合い」という和綿。なかでも、境港市の特産品である「伯州綿」にひかれた。


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「まずは地元の方にお届けし、のちに首都圏に進出したいですね」と、境港市発の地域ブランドを目指す仲里さん。 
「伯州綿シャツ」WEBサイト http://hakushu-cotton-shirt.jpn.org/

 

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伯州綿シャツのバリエーションは、スタンダードタイプからシャツワンピまで揃っている。1着約3万3000円~(税別、地元価格)。

境港市では、伯州綿の栽培を次世代へ継承するため、遊休農地を活用して伯州綿を栽培し、それにかかわる地域おこし協力隊を募っていた。「どちらかといえば、『地域を活性化したい!』というより、和綿にかかわれるので応募しました(笑)。ただ自分の仕事をしっかりやれば、それが境港市の活性化につながると考えていました」。

現在、仲里さんが取り組んでいるのは、境港市農業公社と行う伯州綿の栽培のほか、サイトやSNS、小学校への出前授業などの伯州綿のPR。そして服飾の経験を生かした服づくりだ。服づくりが本格化したのは2020年2月。2018年から取り組んでいた試作シャツを地元百貨店での伯州綿の販売企画で展示したところ、オーダーを受けたのだ。2020年8月に協力隊の任期が終了することもあり、市の起業支援を受けて定住と起業を決意。自宅のダイニングキッチンにミシンを置いて仕事場にした。


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大家さんの庭にある小さな離れを借りている。この一軒家が仲里さんの自宅兼仕事場だ。

 

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イラストが印象的な伯州綿PRパネルは仲里さん作。「小さいころから自分の好きなものを知ってもらいたい性格なんです」。

 

海と山、そして地元の人からパワーをもらい、シャツづくり

仲里さんは、平日は地域おこし協力隊として畑仕事や情報発信に従事しながら、空いた時間はオーダーシャツづくりに精を出す。生産から加工、販売まで、一貫してかかわっている。そんな仲里さんの仕事の息抜きは6年ほど前から楽しんでいるロードバイク。「海沿いを40分ほど走ると、最高のリフレッシュになります。自宅から少し走れば海と山が見える。大自然をとても身近に感じられるのは境港市の大きな魅力ですね」。

伯州綿のシャツには、生産者からも熱い期待が寄せられる。仲里さんが栽培を学んだ綿畑の師匠・岩本清隆さんもそのひとり。「彼のシャツが売れることが和綿の栽培につながる。うれしいし頑張ってほしいですね」。

境港市で〝天職〞を見つけた仲里さん。オーダーシャツは、仲里さんの感謝の品でもある。「シャツを通じて自分の好きな伯州綿を全国の人たちに知ってもらうことで、今まで支えてくれた方や、境港市に恩をお返ししたいです」。


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州綿シャツの原点の綿畑。「きつい作業もよく頑張った」と語る師匠の岩本清隆さんは仲里さんを応援する。 

 

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「ロードバイクで走るには境港市は最高の場所。高低差がなく初心者でも安心です。全国のロードバイク愛好者に来てほしいですね」と仲里さん。

 

 

●information● 鳥取県境港市
妖怪に出会うならここしかない! 境港市出身の漫画家・水木しげる氏の作品に登場する177体の妖怪ブロンズ像が並ぶ水木しげるロード。夜はライトアップもされるなど、さまざまな演出が楽しめる。また、夏はマグロ、冬はカニと豊富な海の幸が自慢。サイクリングにボートやヨットなど自然アクティビティーも満喫できる。 
境港市地域振興課 ☎0859-47-1024

宝島社発行「田舎暮らしの本2020年8月号」掲載