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移住者インタビュー

樹木の専門家が林業の町へ 森林・林業の知識を地域へ還元

林業の町・智頭町へ樹木の専門家が移住

 「昔から日本の山々は採草地や薪炭(しんたん)林(りん)として利用されてきました。戦後、スギやヒノキなどの針葉樹人工林に変わってきましたが、智頭町の芦津(あしづ)渓谷には、貴重なスギの天然林が残っています」
 そう話しながら芦津セラピーロードを案内してくれたのは、山本福(ふく)壽(じゅ)さん。鳥取大学農学部の教授を務め、2016年に退職し、その後2年間は鳥取大学乾燥地研究センターで特任教授を務めた。専門は造林学(樹木生理学)で、特に樹木の生長や生理のメカニズムなどを研究テーマにしている。
 福壽さんは岐阜県関ケ原町で山仕事をしてきた杣(そま)の家に生まれ、子どものころから山に親しんで育つ。鳥取大学を卒業後、九州やアメリカの大学に勤務し、1988年に母校の鳥取大学へ着任した。
 妻の真弓さんは樹木医。福壽さんが九州大学の大学院生だったときに造園業に勤めていた真弓さんと知り合い結婚。
 「妻は1本1本の木を診て大切にするのが仕事。僕は山全体を観ることが主です。だから、家でもよくディスカッションしていますよ(笑)」と福壽さん。
 以前は鳥取市内に住んでいた山本さん夫妻だが、退職を機に智頭町へ転居した。智頭杉で有名な智頭町は、面積の93㌫を山林が占める。
 「林業の町である智頭町は、歴史的な背景や生活のなかに山が根付いています」(福壽さん)
 「高速のインターもあるし、智頭駅には特急が止まるし、とても便利ですよ。買い物は車で40分ほどの鳥取市内へ、冬はときどき青空を見に岡山へ行きます(笑)」(真弓さん)

 

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芦津セラピーロードにある樹齢100年ほどのスギ。大きな石の上に載るような形で伸びている。

 

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「今夢中なのが、樹幹の傷害に対する反応と樹脂の分泌についての研究」という福壽さんが、ミズメの樹皮を削ってくれた。サリチル酸メチルが含まれていて、湿布薬のような香りがする。

 

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セラピーロードの手前にある「山里料理 みたき園」。広大な敷地に古民家やカフェなどが点在し、手づくりの料理などが楽しめる。
みたき園 智頭町芦津707 ☎0858-75-3665

 

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「先生、火をおこすのが上手」とみたき園の女将・寺谷節子さん(右)。智頭町の寺谷誠一郎前町長夫人でもある。

 

 

森林・林業の知識を地域へ還元したい

 智頭町へ転居した2人は、森林・林業の専門情報を地域へ還元しようと、任意団体「杣(そま)塾(じゅく)」を設立。その後、地方創生事業として始まった「智頭の山人(やまひと)塾(じゅく)」の運営を杣塾が行い、福壽さんが塾長に。事務所は、国の登録有形文化財である旧山形小学校内に設けた。
 樹木の育て方、苗のつくり方、病害虫への対応など専門的な講座のほか、自然のなかを歩く、採取した葉っぱやキノコを調理して食べるなど、一般の人が楽しめるプログラムも行っている。地域の住民や県外の人も参加し、人気が高い。
 「山だけでなく、田舎で暮らすさまざまな知識を学ぶ場になればと思っています。なにより山は面白いですから。それを知るきっかけになればいいですね」
 以前は智頭宿の街中の家を借りていたが、今年になって空き家バンクで家を見つけ引っ越した。地域にすっかり溶け込み、出会った町の人たちから「先生」と声をかけられている。
 山や樹木への理解を広めていきたいという山本さん夫妻。林業の町・智頭町をフィールドに楽しい展開が待っていそうだ。

 

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智頭の山人塾(https://yamahito-juku.com/)の事務局がある旧山形小学校。
81mもの長い廊下にて、山本福壽さんと真弓さん。

 

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この日、加藤さんが釣ったイワナ。いちばん大きなものは30㎝ほどもあった。

 

 

●information● 鳥取県智頭町
面積の93 %が山林で、「杉のまち」として知られる。山村の原風景や宿場町の面影を今も受け継いでいる。森林セラピーや森のようちえんなど森林資源を活かした町づくりを行う。
<問合せ先>智頭町企画課 TEL 0858-75-4112

宝島社発行「田舎暮らしの本2019年7月号」掲載