学生時代に意気投合し 新卒で移住して起業
西日本の名峰・大山(だいせん)の雄姿を眺めながら、里山暮らしができる南部町。かつて大国主(おおくにぬしの)命(みこと)が蘇った神話も伝わる南部町は、〝再活(さいかつ)の町〞のフレーズを掲げ人が活躍できる町として注目が集まっている。
2017年春に大学を卒業して南部町にIターンした渡會(わたらい)昂(こう)佑(すけ)さん(24歳)と前山(まえやま)寛(ひろ)文(ふみ)さん(25歳)は、まさに〝活躍中〞の2人だ。学生時代にJASCA(全国学生連携機構)のフィールドワークで同町を訪れ、里山の素晴らしさに感動し意気投合。アルバイトと融資で集めた350万円で卒業と同時に合同会社「ジブンゴト」を設立した。町内の空き家を借りて住み、学習塾と地域活性化事業に取り組む。
渡會さんは東京都出身。「私たちの世代は〝知らない人には声をかけない〞と教えられてきましたが、ここは真逆。近所付き合いが密で、挨拶から知り合いがどんどん増えていく、東京にはない世界です」と話す。
起業した理由は、2人が感じていた疑問が要因だったという。
福岡県出身で長崎大学に通っていた前山さんは、「周りの人たちが〝大きい仕事や刺激的なことは大都市でしかできない〞ということに違和感があった」という。また渡會さんは高校時代から、「なぜ大学卒業してすぐ就職するのか」と感じていた。
「企業の看板ではなく自分の名前で(仕事を)やっていきたい。ならばと起業を決心しました」
前山さん(右)が持っているのは塾の生徒からもらったスイカ。「野菜などは東京とは全く違う、本当のおいしさがあります!」(渡會さん)。
合同会社「ジブンゴト」
豊かな里山が広がる南部町。仕事の合間にのんびりと散策できるのも、田舎暮らしならでは。
町民おすすめのビューポイント、母塚山(はつかさん)から見る名峰・大山。そのすそ野に町が広がる。
地域課題を新ビジネスに資源を活かした町づくり
実は学習塾を開設したのは、南部町の事情もあったという。
「町の子どもたちは米子市の塾に行っていますが、町内に塾があれば米子まで行かずにすみます。塾では、子どもたちが将来、自分の生きたい人生を送れるように、みんなで1つのテーマを話し合うなど、コミュニケーション力を育むことにも重点を置いています」(渡會さん)
現在、塾には米子市から通う生徒もいる。自分で目標を見いだす力を育むことは、次世代の人材の育成が急務な地方の課題解決にもつながりそうだ。
移住して約一年半、塾以外にもホームページ作成や地元の農事生産組合の営業も行うなど仕事の幅を広げる。さらに、それぞれの目標もできつつある。
「南部町には素晴らしい里山があります。それを活かして自分が好きなトレイルランニング(※)の大会を開催し、地域や自然を愛するランナーが集う町にしていきたい」(前山さん)※陸上競技の中長距離走の一種で、舗装路以外の山野を走るもの。山岳レースともいわれる。
「ここでの仕事、経験、交流から得たものを糧に地方で必要とされる人になりたい。相方のトレイルランナーとしての夢を実現するサポートもやっていきます」(渡會さん)
2人の活躍が、南部町の新たな魅力をつくっていくだろう。
藤原農園の代表、藤原(ふじはら)良一(りょういち)さん(写真中央)は、2人の“お父さん”的存在。
「南部町の(まちづくりを担う)“とんでもない人”になってほしいですね」(藤原さん)。
2018年4月にオープンした町営交流拠点施設「えんがーの富有(ふゆう)」。「ジブンゴト塾」のほか、地域自治組織や地元食材を使ったジェラート専門店が入る。
●information● 鳥取県南部町
米子市の南に位置する人口約1万1000人の町。環境省が選定する「生物多様性保全上重要な里地里山」に、西日本で唯一、町内全域が選定された。日本有数のフラワーパーク「とっとり花回廊」がある。
<問合せ先>問南部町企画政策課 TEL 0859-66-3113
宝島社発行「田舎暮らしの本2018年11月号」掲載