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移住者インタビュー

地方を豊かに 自分なりを求めて

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 「アルバイトを30職以上経験して、価値観を広げました」。そう話すのは、宇佐美孝太さん(取材時32歳)。大学卒業後、2016年に鳥取県の地域おこし協力隊に着任し、赴任中にドローンを活用して地方創生に貢献する株式会社skyer(スカイヤ—)を鳥取県西伯郡(さいはくぐん)大山町(だいせんちょう)にて設立。ドローンパイロット育成スクール事業を軌道に乗せると、2019年には鳥取県初の3人制プロバスケットボールチーム「TOTTORI BLUE BIRDS. EXE(鳥取ブルーバーズ・ドット・エグゼ)」を発足、2022年には共創型ワークプレイス・鳥取式ベンチャー人材の養成拠点「SANDBOX TOTTORI(サンドボックス鳥取)」を開設するなど、快進撃を続けている。その原動力をたずねた。

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「SANDBOX TOTTORI(サンドボックス鳥取)」を背景に宇佐美孝太さん

(画像提供:宇佐美孝太)

 

就職ではなく起業の道へ

 社会を学ぼうと30種類以上のアルバイトで仕事を経験し、様々な業界を知ることができた。大学4年生のときに就職活動を経て広告代理店から内定を受け、内定者のインターンで実際に商品の広告業務に取り組むことになった。しかし、上司からの指示でみんなと同じ仕事を続けることに疑問を感じた。気力も体力も一番充実している時に、自分が心から良いと思うものを伝えられないのはもったいない。そこで起業を決意した。大学の起業家養成プログラムを活用してあらためて自分の問題意識と向き合い、社会課題の解決につながるビジネスを志すことを決める。特に、「地方の若者の機会格差を減らす」という観点から、地方で雇用を作り出すことに着目した。地方に人を呼び戻すためには、若者に訴えるビジネスである必要がある。さらに、人手不足の地方でビジネスを興すならテクノロジーを駆使することが重要だと考え、当時注目が集まり始めていたドローンに目を付けた。

 2016年8月、宇佐美さんは鳥取県西伯郡大山町にて株式会社skyer(スカイヤ—)を創業する。主な業務はドローンパイロットの養成スクールやドローンの開発事業だ。鳥取県を挑戦の場所に選んだ理由は、「日本で最も人口が少ない都道府県であること」と「社会課題の最前線であること」。ここでビジネスが通用すれば、他の地域に展開できると考えた。社会課題の最前線ということは、ビジネスチャンスがたくさんあるということだ。これまでの受講者は400名程度(2023年10月末実績)で、属性は建設や土木、官公庁、点検業務、報道、農業従事者など多岐にわたる。その後ビジネスは、受講生のつながりから新たな展開を見せる。受講生との出会いがきっかけとなり、太陽光パネルを効率的に点検するビジネスモデルを作成し、2019年3月にはジョイントベンチャーを設立する。さらには、2019年6月には、鳥取県とドローンを活用する災害時応援協定を結んだ。2022年にはドローンの操縦ライセンス(免許)制度が導入され、ドローンビジネスは新たなフェーズに突入している。

 

 

 

スポーツビジネスで鳥取の若者の可能性を広げる

 宇佐美さんの「地方の若者の機会格差を減らす」というコンセプトは、地方にプロスポーツチームを設立するという方向にも展開する。2019年、3人制プロバスケットボールチーム「TOTTORI BLUE BIRDS.EXE(鳥取ブルーバーズ・ドット・エグゼ)」のオーナーに就任し、スポーツを通して鳥取県を盛り上げようとしている。鳥取城北高校の生徒をインターンとして受け入れて、チーム運営や広報活動などを体験しながら学ぶ機会を提供している。高校ではアルバイトを禁止していることが多く、地元の企業の魅力を知ることなく、卒業して県外に出てしまう高校生が多い。地元で実践的な経験を重ねて、鳥取の若者の学ぶチャンスを増やすことがねらいだ。

 3人制バスケット「3×3(スリー・バイ・スリー)」を選んだ理由は、中学高校時代にバスケットに熱中しており、大学生のときに3×3のイベントを企画・運営した経験があったことと、ショッピングセンターでもプレイできるほどコートも小規模かつ少人数制の競技ということもあり、人口が少ない鳥取県に適していると考えたからだ。クラウドファンディングで資金を募り、認知を広めるだけでなく、集まった資金はプロの公式戦を誘致することに活用するなど、「より多くの人を鳥取に巻き込む」ことをめざした。地方でのスポーツビジネスを通じて、若者の可能性を広げることを模索している。

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「TOTTORI BLUE BIRDS.EXE」の活動の様子 (画像提供:宇佐美孝太)

志を同じくする仲間を全国から求める

 鳥取での様々な活動を通じて感じたことは、「自分達だけでは遅い」ということだ。自分達の取り組みだけでは、当然限りがある。しかし、社会の変化は待ってくれない。そのため、全国から同じ志を持つ仲間を集めようとワークプレイス「SANDBOX TOTTORI(サンドボックス鳥取)」を2022年に開設した。ここは、企業や自治体、個人が県内外を問わず、ともに社会課題の解決に取り組むコラボレーション拠点と位置付けている。何より、目の前に鳥取砂丘が一望できる最高のロケーションがある。「ワーケ―ション〔ワーク(労働)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語〕」の社会的な関心の高まりも後押しして、場所を問わず豊かに暮らし働くことを求める人々に、新しい活動場所を提供している。

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株式会社skyerが開設したワークプレイス

「SANDBOX TOTTORI(サンドボックス鳥取)」 (画像提供:宇佐美孝太)

「やった後悔より、やらなかった後悔をしたくなかった」

 ここまで宇佐美さんの快進撃をたどってきたが、新卒で起業することに不安はなかったのだろうか。宇佐美さんは「やって後悔するより、やらなかった後悔をしたくなかった」のだという。失敗しても若いからまだやり直せる。ビジネススキルは“走りながら”修得した。ビジネス書を読み漁ったりインターネットを駆使するなど、自身ができる努力はもちろん惜しまなかったが、同時に多くの人を頼ることも忘れなかった。「地方をどうにかしたいと本気で努力している人はたくさんいる。その人たちに自分の意志を率直に伝え、行動で示すことが大切。自分が選んだ道を正解にしていくしかない」。若さゆえの経験不足さえ武器に変える、そんなたくましさを感じさせた。

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 インタビューを通して、私たちは学生時代から培ってきた価値観が、キャリアを形成する原動力になることを学んだ。自分にしかできない仕事、自分がしたい仕事を発見するには、自分から動き多様な経験を積み、社会を知ることだ。そして、ロールモデルを見つけること、積極的に人に頼ることも忘れてはならない。

(2023年9月取材)

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「SANDBOX TOTTORI(サンドボックス鳥取)」のコラボレーションスペース

(画像提供:宇佐美孝太)

宇佐美孝太(うさみ・こうた)さんのプロフィール

宇佐美孝太さん 1991年佐賀県唐津市生まれ。早稲田大学スポーツ科学部に入学し、在学中に起業を決意。大学卒業後、鳥取県の地域おこし協力隊に就任し、2016年にドローン事業を展開する株式会社skyerを創設し、代表取締役に就任。2019年に鳥取県初の3人制プロバスケットボールチームのオーナーに就任し、「TOTTORI BLUE BIRDS.EXE(鳥取ブルーバーズ・ドット・エグゼ)」を運営。2022年、ワークプレイス「SANDBOX TOTTORI(サンドボックス鳥取)」をオープンした。