JR鳥取駅前に本社を構えるIT企業の株式会社アクシスにて、超地域密着型生活プラットフォーム「Bird(バード)」事業の立ち上げにかかわった梶岡大晃(かじおか・ひろあき)さん(取材当時34歳)。大阪のシステム企業での勤務経験を経て、鳥取県の同社への転職を機に鳥取県に移住した。プラットフォームサービスの開発やDX推進コンサルティング等を通じて、地域活性化の一途を担う。地方都市と都市部を支える次世代型ビジネスとは、どのようなものだろうか。
梶岡 大晃さん
(岡村こず恵撮影、2024年9月17日)
移住のきっかけ
梶岡さんは、もともと地方の出身で、大阪で4年ほどシステムエンジニアとして働いているときに、やはり「田舎がいいな」と思うようになった。地方都市で仕事が見つかるかどうか不安はあったが、それ以上に、自分がやりたいこととズレていることを我慢する方が自分にとっては大変で、退職を決意した。田舎に帰るときに、大阪で知り合った方から、鳥取県に遊びに来るようお誘いをいただいた。大阪で知り合った方とは、丁度その頃、鳥取県の「とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点」の戦略マネージャーに就任した松井太郎さんのことだ。当時、知事の次に高い彼の給料(県からの委託事業として支給)が話題になっていた。梶岡さんはてっきり鳥取県に遊びに行くものだと思っていたが、松井さんに次々とビジネス関係者に引き合わせてもらった。ある懇親会の場で、梶岡さんが「田舎でビジネスをやりたい」というようなことを話したところ、その席に参加していた今の会社である株式会社アクシスの社長と出会ったがきっかけで、同社に入職することになった。26歳の時だ。幸い、同社では温かく迎え入れてもらえた。当時はアルバイトからの入社だったが、気軽にランチに誘ってもらえるなど、仕事仲間とはフランクな関係が今も続いている。
私たちからの質問に、丁寧に回答いただいた
(岡村こず恵撮影、2024年9月17日)
鳥取での仕事
入社した株式会社アクシスは、システム開発からアウトソーシングまでワンストップで企業の経営改革を支援するIT企業である。プラットフォームサービスの開発・運用を得意とし、エネルギーやネットワークインフラにかかわる各地のさまざまな地域や企業の課題解決に寄与している。1993年の創業から規模を拡大し、2017年度には経済産業省「地域未来牽引企業」、2020年度には中小企業庁「はばたく中小企業・小規模事業者300社」2020にも選定されるなど、全国的に注目されている成長株の企業である。
本社のある鳥取県は中山間地域を多く抱えており、多くの地方都市で共通する人口減少によるマーケットの縮小やスーパーの撤退、社会的なデジタルトランスフォーメーション(DX)化の加速などの課題があった。こうした課題解決のために、次世代にむけた取り組みの仕組化をめざしたビジネス、それが、梶岡さんが手掛けた超地域密着型生活プラットフォーム「Bird(バード)」である。
インタビューの様子
(岡村こず恵撮影、2024年9月17日)
「Bird(バード)」と描く未来
超地域密着型生活プラットフォーム「Bird(バード)」とは、インターネットを始めとするデジタル技術だけでなく、配送網を中心とするリアルな側面も持ち合わせた総合的なプラットフォームビジネスであり、次のような3つの主要サービスがある。加盟するスーパーの商品をインターネットで購入し、自宅や職場に届け、日々の生活を支える「トリスト」、加盟する飲食店の料理をデリバリーする「トリメシ」、薬局と連携し、自宅や職場に処方薬の配送を行う「トリメディ」だ。
梶岡さんには、この「Bird(バード)」を使い2つの描きたい世界があるという。1つ目は、コミュニティの再構築だ。田舎といえどコミュニティの人間関係は“薄く”なっている。一方で高齢者が増え、田舎の診療所などが皆の集合場所になり、長時間過ごすことがあるという。こういったコミュニティを大事にしつつ、既存施設のDX化を行い、町村合併に伴う役場機能の集約でコミュニティが縮小されるのではなく、公民館を起点にコミュニティができる仕組みを作っていきたい。
2つ目は、上記で述べたコミュニティ形成のためにも、公民館のDX化で効率的な住民サービスを実現しようとするものだ。いまの人口減少時代に生活インフラを効率的に維持するためには、デジタル技術は不可欠である。これを活用して、たとえばオンラインでの注文や、遠隔診療、体操教室などのコミュニティ形成などを作り出そうとしている。
そして、これらを実現する手段が「Bird(バード)」である。デジタル面では、地域の馴染みのお店が100店舗以上加盟しており、地域経済の循環をめざす。リアル面では、地域で配送員を雇って、利用者が確実に商品を受け取れる体制を整備している。これは、「UberEats」や「出前館」など都市部で多く見られる配送ビジネスモデルとは、根本的に異なっているそうだ。そもそも地方都市では、単発で希望する時間に働く「ギグワーカー」やフリーターと呼ばれるような立場で働く人は多くない。そこで、「トリスト」「トリメシ」「トリメディ」の3つのサービスで一定規模の配送数を確保して、配送員を雇用しつつ、常に何かを配送できる状態を作り出している。地域課題を解決するためのビジネスの工夫を見出すことができる。
Axisの社内見学の様子
(岡村こず恵撮影、2024年9月17日)
地域住民や関係者と向き合う
それにしても、高齢者が多い地域にデジタル活用はハードルが高そうに感じるが、実際のところはどうか。
いま実証実験として取り組んでいる鳥取県八頭町では、公民館と似た機能を持つ福祉施設を活用している。高齢者の方々に「Bird(バード)」を身近に感じてもらうために、週一回高齢者の体操などに同社の社員が参加して、ほぼ毎日のように画面を見せながら注文を受け付けているそうだ。また、堅苦しいスライドでは高齢者の理解を得づらい。インターネットやオンラインというカタカナを使うだけで、高齢者は聞く耳を持たなくなる。サービスのイメージが浮かぶように、言葉遣いや、ゆっくりと話すなど、細かいところに気をつけながら地域の方と関わり、1人でも多くに周知できるよう、賛同していただけるように努めている。
ときには、まちづくり事業を担う地域団体を通じて、地域の運動会や水泳大会にも積極的に参加する。地域自体が新しい取り込みを受け入れようとする雰囲気をもっていることも大切だが、それ以上に、地域に溶け込もうとする姿勢をもつことが重要だと考えている。
また、新たに物事を進めるときは、地域の関係者に「こういう地域課題があって、それを解決するために、こういうことをやりたいんです」と素直に伝えるようにしている。そのうえで共感してもらえる人とはどんどん話が進むし、仮に課題があっても丁寧に説明を重ね解決策を出し合うなどして、話が前に進むところから進めるようにする。「大切なことは、お客様や、協力していただいている方たちを裏切らない。期待に応えられるよう、誠心誠意仕事すること」。そして「最後はやっぱり情熱ですね」。こうした企業の姿勢や考え方、また仕組みをビジネスとして展開していこうとするあり方が、将来の地域経済を支えていくのだろう。
社内の壁に「Change The Future With Passion」
(情熱をもって未来を変える)のスローガン
(春日井実莉撮影、2024年9月17日)
学生のうちに様々な経験を
最後に、私たち大学生にアドバイスをいただいた。「学生のときは、遊んだらいい。色々な経験をして、色々な人と会えば良い」。梶岡さんは学生時代に海外研修プログラムに参加し、英語で発表会に参加したり、そこでの人びととの出会いが刺激となり、「話したい!」と思ってTOEICを勉強するようになったそうだ。梶岡さんの転職のエピソードも、人との出会いの重要性を体現している。私たちに今できることは、様々な経験、遊びを含めて、どんなことでも挑戦することなのかもしれない。
〈梶岡 大晃(かじおか ひろあき)さんプロフィール〉
岡山県真庭市出身。大阪のシステム企業にてシステムエンジニアとして約4年間勤務した後、株式会社アクシスの社長と出会い、転職とともに鳥取県に移住。2020年9月から超地域密着生活プラットフォーム事業「Bird(バード)」の部長として事業を牽引。
JR鳥取駅前にあるアクシス本社ビル
(春日井実莉撮影、2024年9月17日)