ホーム移住者インタビュー移住関係者のキャリアの重ね方「諦めずに行動することで叶えた夢」

移住者インタビュー

「諦めずに行動することで叶えた夢」

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 「僕が入社したきっかけは、会社に夢があったからです」。そう話すのは、岡田悠樹さん(取材時22歳)。幼い頃から鉄道が好きで、学生時代は鉄道業界への就職を目指していた。当時は新入社員の募集がなかった若桜鉄道株式会社だったが、岡田さんの熱心なアプローチを経て入社、それをきっかけに兵庫県神戸市から鳥取県に移住した。現在は工務課に所属しており、主に線路の維持・管理に携わっている。

 

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(岡村こず恵撮影, 2024年9月17日)

 

自ら動くことで未来を開く

 当時、大学三年生だった岡田さんは、他の多くの大学生と同じように、当初は大手就職サイトに掲載されているインターンや説明会等の情報に応募するだけだった。しかし、鉄道会社で路線の維持管理等を担う技術職に関心をもっており、大学のキャリアセンターに「募集はない」と言われてもあきらめきれなかった。そんなとき、「世の中にある様々な会社を自分で調べて、気になるところがあればメールしてみろ」と親にアドバイスを受けた。周囲に積極的にアタックしている学生はほとんどいなかったため、半信半疑で問い合わせをしたところ数社から反応があり、そのなかのひとつが若桜鉄道だった。インターンに参加してみると、危険が伴うため見学だけで終わる会社が多いなか、実際の現場での作業を体験できて、この仕事の楽しさややりがいを感じることができた。

 

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マクラギに穴をあける作業

                      (画像:岡田悠樹さん提供)

 

 その年の若桜鉄道株式会社は、新卒の正社員を募集する予定はなかった。しかし、募集がないことが分かっていても、インターンとして志高く、一生懸命作業に取り組む岡田さんの姿は若桜鉄道社員の印象に残り、新入社員として受け入れることにつながった。

 岡田さんが同社に入社して良かったと思うことは「人に恵まれたこと」だという。岡田さんの所属する工務課の6人の職員はほとんどが60歳以上であり、JR職員を退職したあとも「働き続けたい」と若桜鉄道に来ている人が多い。だから、世代間のギャップはあるものの、みなさん陽気で一緒に仕事をしていて嫌な気持ちにならないそうだ。また社員のなかには野菜を育てている人が多く、よく野菜をもらったり、農家とのつながりを通じて米を安く買えることもあるという。もちろんお得感があることも嬉しいが、それ以上に、このような人たちだからこそ働きやすい環境なのだろうと好意的に受け止めている。

 

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岡田さんからお話を伺う

                  (岡村こず恵撮影, 2024年9月17日)

 

娯楽が少ないからこそ広がる趣味

 人口100万人を超える神戸市出身の岡田さんは、日本で最も人口が少ない鳥取県での暮らしに満足しているのだろうか。鳥取県の魅力について質問すると、最も大きいのは渋滞のストレスがないことだという。「正直に言って、僕はもう街に疲れていたんです」。都市では人がとても多く、また歩いているときの他人との距離が近い。「都市では20・30キロの車の移動でも、渋滞や信号などで30~40分はかかるんです。でも鳥取は目的地まで止まることがあまりないので、快適に移動できるのが嬉しい」と、趣味のドライブも功を奏しているようだ。

 さらに生活面では「静かに生活できること」を挙げる。地元の神戸では沿線に住んでいたため、昼は電車、夜は貨物列車と、一日中、街の音と生活していたという。「鳥取では自分さえ音を立てないでいると、周りからは虫の声しか聞こえない。自分にはこの環境が合っている」と、都市と地方の環境の違いを新鮮に感じているようだ。また、神戸で以前住んでいた地域では、隣人に関わりたくないオーラが発せられていて周囲からシャットアウトされているかのように感じていた。しかし、いまでは住民が気軽に駅に遊びに来てくれたり、お菓子を持ってきてくれたり、そんな人たちに若桜鉄道は支えられていると感じているそうだ。

 

 逆に、不満に感じることは、娯楽施設の少なさである。例えば、映画を観に行くなら米子、姫路、岡山と選択肢が少ない。そんなこともあってか、岡田さんは鳥取県に移住してから「ベランダで農作を始めてみたい」と思うようになった。鳥取の豊かな自然に季節を感じたり、近くの野菜の収穫の様子を間近にみていて、興味をひかれるようになったという。また職場に野菜を持ってきてくれる社員の方の影響もあるという。娯楽が少ないなら自分で新しいことを始めてみるという発想も、暮らしを彩る要素になるのかもしれない。

 

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インタビューの様子

                (岡村こず恵撮影, 2024年9月17日)

 

就職活動時に磨かれたコミュニケーション能力

 就職活動を始める前は人と話すことが苦手だった岡田さん。当時のアルバイトでもお客さんと話すことに苦手意識をもっていたため、工場などで働いていたという。しかし、他社で行われた5日間のインターンシップへの参加を通して、コミュニケーション能力がかなり鍛えられた。最初はなかなか上手く話せなかったものの、誰かの意見に対して自分から「じゃあ、これはどうですか、あれはそうだと思います」と会話のキャッチボールをするように意識した。その結果、会社説明会やインターンシップに参加した際に、会社の人事の方に顔を覚えてもらえるほどコミュニケーション能力を向上させることができたという。

 コミュニケーション能力は就職活動において特に重要であり、会社の招待イベントなどにも呼ばれやすくなるため、「力をつけておくとかなり役立つ」と岡田さんは話す。このようにして培ってきた岡田さんのコミュニケーション能力があったからこそ、募集がない会社にも自ら飛び込んで行ったり、職場の人びとともすぐに打ち解けられたのだろう。

 

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インタビューでは、一つひとつ丁寧に回答いただいた

                          (岡村こず恵撮影, 2024年9月17日)

 

若桜鉄道での挑戦と今後のキャリアプラン

 岡田さんは、いつか作業責任者になる夢をもっている。いまは上司が担っている行政や業者との工程や金額など工事の打ち合わせを、いずれはできるようになりたいという。そして、若桜鉄道をより良くしていくために、将来的には作業を指示する役職になることを目指している。自身の同期がいない分、部長や周りの方々の期待に応えたいという思いを強くもっており、朝早く出勤して時間を作るなどの工夫をして、日々勉強に励んでいる。

 さらに、数年後に予定されているDL本線での運行計画に岡田さんは心を躍らせている。もしこの計画が実現すれば、岡田さんは「車掌をしてみたい」と思っている。工務員でいる限り乗務員はできないが、いつか異なる職種にも挑戦したいという気持ちを抱いている。

 

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若狭駅

(岡村こず恵撮影, 2024年9月17日)

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SL機関車の展示

(岡村こず恵撮影, 2024年9月17日)

 

 幼少期からの「好きなこと」を追求し続け、人々の安全を守る仕事に就いた岡田さんの真っ直ぐな生き方に、心を動かされたインタビューだった。たとえ正職員の募集がなくとも、自分の気持ちや興味を大切にし、できることから行動して決して諦めないことが、後悔しない生き方につながるのだろう。私たち自身が納得できる進路選択ができるように、今回の学びを踏まえ、幅広い視野と夢のある目標をもつことを心がけていきたい。

 

〈岡田悠樹(おかだ・ゆうき)さんのプロフィール〉

 岡田悠樹さん2001年兵庫県神戸市生まれ。2024年3月に流通科学大学を卒業。幼い頃から鉄道が好きだったため鉄道会社に就職することを決意し、若桜鉄道株式会社に入社。就職を機に鳥取県に移住した。現在は工務課に所属する。趣味はドライブであり、鳥取の自然豊かな風景を日々満喫している。将来的には作業責任者に就き、若桜鉄道をさらに発展させることを目標としている。