中元淳子さん(取材時50歳代)は2011年に東京都から鳥取県米子(よなご)市に家族で移住し、ふるさと鳥取県定住機構にて就職コーディネーターとして勤めている。移住に伴いテクニカルライターから就職支援へキャリアチェンジした。ふるさと鳥取県定住機構は、鳥取県や県内の市町村等と連携しながらIJUターン就職や県内定住を促進するための様々な支援に取り組む機関で、1996(平成6)年に設置された。
箕浦香生里さん(取材時30歳代)は生まれ育った愛知県から鳥取市に2023年春に移住し、同機構の就職コーディネーターとして主に学生に関わる業務を担当している。前職の接客・販売業から就職支援にキャリアチェンジし、現在はキャリアコンサルタントの資格取得をめざして勉強中である。
移住者でもあり、移住支援者でもあるお二人に、移住支援の実際についてお話を伺った。
箕浦香生里さん(左),中元淳子さん(右)
移住したきっかけ
中元さんは、テクニカルライターとして家族と東京都で生活していた。2011(平成23)年の東日本大震災の際に、居住地・勤務地の人口密度の高さに不安を覚えたことをきっかけに、西日本である米子市に家族とともに移住することを決意した。米子市は、これまでのところ比較的災害が少なく、水が美味しいことが気に入っている。
箕浦さんは、コロナ禍での山陰旅行で食べ物や地域の人々の雰囲気などから鳥取県や島根県に移住先として興味をもった。それまで愛知県で接客・販売業をしていたが、モノやコトを売る日々に疲れてしまい、ちょうど仕事の環境を変えたいと考えていたところだった。移住に関しては積極的に移住相談サービスを活用し諸条件を比較して検討したが、最終的には先祖が鳥取市にご縁があったかもしれないことが移住先を選ぶ決め手となった。鳥取市は中核市にもかかわらず人口や建物が密集しておらず、ゆったり時間が流れるところに魅力に感じている。
箕浦香生里さん(左),中元淳子さん(右)
(岡村こず恵撮影,2023年9月21日)
移住の際に利用したサポート
鳥取県では、市町村ごとに移住者に対する支援窓口を設けている。また、東京や大阪など都市圏でも、ふるさと鳥取県定住機構による移住支援イベントの開催や相談事業が展開されている。箕浦さんは、ふるさと鳥取県定住機構の就職コーディネーターに相談したり、ハローワーク(公共職業安定所)を利用し、移住に際し助成金を受けることができた。当時彼女を担当した就職コーディネーターは、移住や就職においてプラス面だけでなくマイナス面も含めた情報を提供し、親身になって対応してくれた。特に、地元企業についての情報提供が的確だった。そしてタイミング良く、ふるさと鳥取県定住機構が職員を募集していたため、移住後の仕事もスムーズに決めることができた。相談してから移住完了までは、1年半程度だったという。一方、子育て世代向けの支援が多く、単身者向けのサポートメニューはあまり充実していないように感じた。現在は自身が単身者向けのサポートメニューの充実をめざすために、機会があれば積極的に意見を述べるようにしている。
インタビューの様子
(岡村こず恵撮影,2023年9月21日)
鳥取県で働くメリットとデメリット
鳥取県で働くメリットは通勤しやすいことだ。中元さんは通勤時間が15分、箕浦さんは7分である。通勤時間が移住前より短くなったことや、移動手段が徒歩や自動車に代わったため、満員電車に揺られることがなくなったことは、想像以上に大きなメリットだったという。さらに箕浦さんは、イベントや都心部の広告のような消費を駆り立てるような誘惑が少ないため支出が減ることや、不規則な勤務形態だった前職と比較して「規則的な生活ができることを、今はとても幸せに感じている」と、地方都市での生活を満喫しているようだ。
一方で、デメリットは、都市圏と比較すると、仕事の業種や企業数が少なく給与水準が低いため、お金の使い方に工夫が必要であることを挙げた。また、イベントや試験など都市圏で実施されることが多いため、たとえば資格取得のために大阪府などへ赴く必要があり交通費が余計に掛かることは、盲点になりそうな視点である。
主人公は、あくまでも相談者
就職コーディネーターは、まず相談者の移住希望を丁寧に伺う。移住を希望する理由、仕事や居住、教育など求める生活環境、スケジュール、予算計画など、本人の希望を明確にできるようサポートする。移住希望者のなかには、生活環境を変えることで何らかの問題の解決を望んでいる人もいる。その場合は、その人にとって真に問題解決につながるかどうかを一緒に考えるようにしている。また、家族の理解を得ていなかったり、家族の中で移住に対する希望に温度差がある場合は、特に慎重に確認するようにしている。
また、求職者に紹介する県内の求人情報の収集にも力を入れている。社風や求めている人材像、企業の強みなど、可能な限り詳しく把握する。すべては、相談者や勤務先にとってミスマッチになることを避けるためだ。「主人公は、あくまでも相談者なのです」。中元さんは、自身の価値観で相談に応じることのないよう肝に銘じている。メリットやリスクについては情報提供するが、最終的に決めるのは相談者。相談者が何を大切にし、今後の人生をどう生きていきたいのか、その考えに基づいてサポートメニューを組み立てることを心がけている。
さらに、若者・学生の希望職種のマッチング率についても伺ったが、そもそも明確な希望職種を抱いている学生は少ないという。マッチングというよりも、学生の自己分析から始まり、意見をすり合わせていくという方法が多いそうだ。ただし、就職活動に向けて早く動き出している学生は、時間にゆとりがあるため有利であるという。たとえば、公務員を目指している場合でも、時間にゆとりがあれば民間企業の面接にも挑戦することもできる。就職氷河期の苦い経験がある箕浦さんは、「場数を踏んで、本来の自分を発揮できるようにすることが大切」と就職活動でさまざまな可能性を模索することを勧めてくれた。
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移住して、それまでの職種が変わることがある。キャリア形成には多様性があり、職種が変わったとしても、柔軟に対応し、いかに熱中できるかが自身のキャリアの充実に繋がるのであろう。お二方は、生活環境を重視しての転職であった。私も人生の優先順位を明確にして、これからのキャリア形成を考えていこうと思う。
(2023年9月取材)
<プロフィール>
中元淳子(なかもと・あつこ)さん
2011年東京都から鳥取県米子市へ移住したIターン経験者。公益財団法人ふるさと鳥取県定住機構の米子窓口にて就職コーディネーターとして活躍中。
箕浦香生里(みのうら・かおり)さん
2023年春に愛知県から鳥取県に移住したIターン経験者。公益財団法人ふるさと鳥取県定住機構の鳥取本所にて就職コーディネーターとして活躍中。
鳥取県米子市役所玄関前にて
(ふるさと鳥取県定住機構 撮影,2023年9月21日)