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移住者インタビュー

どこで働くかより、何をするかが大切

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 鳥取県米子(よなご)市出身の遠藤みさとさん(取材時20歳代)は、大阪にある大学に進学して、いったんコンサルティング会社に就職した。しかし、地域活性化に取り組みたいとの思いを強くし、半年ほどで退社して2021年9月に故郷の米子市にUターンする。ほどなくして、伯耆(ほうき)町福岡にてどぶろくの製造販売を手掛けるまちづくり会社、株式会社上代(かみだい)を事業承継し、代表取締役として会社経営や商品開発、営業と奮闘を続けている。

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遠藤みさとさん

(横田桜咲撮影,2023年9月20日)

 

大学時代にタピオカ店でのミニ起業体験

 2019年に遠藤さんは地元の米子市にて期間限定のタピオカ専門店の起業にチャレンジした。大学在学時代に母親から「若い時の経験が、後々生きる」という助言を受け、それならば「若さを経験に変えたい」と思った。また、地域のために熱心に活動する大人に出会い地域活性化に興味をもつようになった。地域活性化とは「人が集まること」だと捉えた遠藤さんは、当時、人が集まるといえばタピオカドリンク店だと考え、米子にタピオカドリンク専門店がないことを知り、期間限定で出店した。地元の大山乳業の「白バラ牛乳」を使った地域活性化のための商品というコンセプトも評判を呼び、約40日間の営業で売上380万円、7500人を動員。想像以上の成功を収めた。この経験から「地方にないものは、作っていけばよい」ということ、また「自分が挑戦することで、人に何かを与えられる可能性がある」ということ学んだ。

 

 

“自分らしさ”を大切に働きたい

 遠藤さんが就職を意識するようになった大学3年生の頃は、2019年4月に働き方改革関連法が施行され、「残業を減らしましょう」ということが声高に言われていた。しかし、このことに遠藤さんは疑問をもった。働き方改革は、残業を減らすといった目先のことではなく、「この会社で働きたい」と思える企業をつくることではないのかと。そこで、コンサルティング会社ならば、働き方改革も含めて企業をサポートできると考えて、インターン先であった中小企業のコンサルティング会社にひとまず就職した。当時は、都会で“揉まれて”から、地元である鳥取県へのUターンし、ゆくゆくは親のコンサルティング会社で働くというキャリアをイメージしていた。また、大企業ではなく中小企業だからこそ、チャレンジできることがあるのではないかと考えていた。しかし、働き始めてみると自分の想像以上に意思決定がトップダウンであることが分かり、次第に「この仕事は自分でなくてもよいのではないか」と感じるようになった。また女性である自分は出産のタイムリミットもあるので、今できることが大切であること、また、“自分らしさ”を大切に働きたい、それが実現できるのは鳥取だと考えて、コンサルティング会社を退職し、2021年9月に米子へUターンした。「どこに行くかより、何をするかが大切」と考えた。

 

 

「地元の良いものがなくなる、残したい!」

 1960年代の伯耆町はお酒文化でまちがにぎわっていたが、その後、産業は衰退していった。そこで、地域の賑わいを取り戻そうと、2009 年5月に住民の手によって起業された「まちづくり会社 株式会社上代(かみだい)」。2009年7月には、鳥取県内で初めて「どぶろく特区」に認定され、2012年に第7回全国どぶろく研究大会コンテストで初入賞を果たす。翌2013年には、濃芳醇の部で最優秀賞を授与された。しかし、経営陣や作り手の高齢化やコロナ禍の売上の減少等により、2021年12月に廃業が決まっていた。その廃業の話を上代の創業に携わっていた方の集まりで知った遠藤さんは「地元の良いものがなくなる、残したい!」と、上代の事業承継者に名乗り出た。そして、2022年8月に正式に社長就任が決まった。

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主力商品「源流どぶろく上代」

(岡村こず恵撮影,2023年9月20日)

 

「人は死んでも、意志は死なない」

 社長に就任して、初めに課題に感じたことは、主力商品の「源流どぶろく上代」は、熱心な地元ファンが多いものの、顧客の8割が60歳代以上であるということ。また、特に20歳代や30歳代の人に「どぶろく」の認知度が低いことだ。100年続く企業をめざす遠藤さんとしては、この状況を変える必要があった。そこで、30歳代の女性をターゲットに、2023年3月に朝専用あまざけ「AM」という新商品のオンライン販売を開始した。甘酒は「飲む点滴」との別名があるほど栄養価が高く、「忙しい朝は、これだけ飲んでおけば大丈夫!」というコンセプトにした。新商品販売開始の際にも、地元住民約150人が集まってまちづくり会社を創業したときの「人は死んでも、意志は死なない」という先代たちの心意気に決意を新たにしたという。「どぶろくを一過性のブームではなく文化に育てたい」。これからも先代たちの思いを大切にしながら、時代に即したさまざまな取り組みにチャレンジしていくつもりだ。

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どぶろく製造場で製造過程の説明を受ける

(岡村こず恵撮影,2023年9月20日)

 

めざすは「応援したいと思ってもらえる会社」になること

 遠藤さんは、事業を引き継いだ思いを「お酒造りがしたいのではなく、地域活性化に取り組みたかった」と語る。これほど美味しいお酒を造ることができるのは、地域の自然環境が豊かだから。そして、自分達がビジネスとして成功すれば、地域の自然を守っている農家のみなさんの営みを残すことができる。そのためには、応援したいと思ってもらえる会社になることが大切であり、共感してもらえる商品・サービスづくりをめざしている。具体的には、子ども達に酒米の田植え経験など原料づくりから携わってもらい、地域での楽しい思い出をつくるイベントなどを開催している。また、事務所は以前住民が通っていた旧・二部小学校分校を活用し、いずれはこの場所を地域の人々が集まれるようにしたいと考えている。遠藤さんは、上代が「地域の起爆剤になれたら」と話しつつ、自分は「地域のお孫さん」のように思ってもらえるような存在でありたいと照れながら話した。

(取材時期:2023年9月)

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    どぶろく製造場(鳥取県伯耆町福岡)

    (岡村こず恵撮影,2023年9月20日)

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    廃校になった小学校を事務所に利活用

    (岡村こず恵撮影,2023年9月20日)

 

★遠藤みさとさんのプロフィール

 2016 年3 月に米子西高等学校を卒業。大学は大阪の阪南大学経営情報学部に入学。大学在学中に米子市でタピオカ専門店「me cafe」を開業。大学卒業後は大阪のコンサルティング会社に就職。その後5ヶ月で退職し鳥取に U ターン後は、株式会社 BEANS に就職。2022年8月にどぶろく製造所の代表取締役社長に就任。