■プロフィール
池本亜希子(いけもと・あきこ)さんは鳥取県鳥取市出身。大学進学を機に上京し、東京都の大手アパレル企業で14年間勤務したのち、鳥取県湯梨浜町へ移住した「Jターン」の経験者である。2022年11月~2025年10月の3年間は地域おこし協力隊として空き家活用や移住支援に携わる一方、栄養を軸に、ヨガ・ピラティスのインストラクターとしても活動されている。
■移住のきっかけ
池本さんは大学で栄養学を専攻し、卒業後は都内のアパレル企業で接客やサービスのスキルを磨いてこられました。転機となったのは2019年の出産です。育児休業中に「本当にやりたいこと」を考え直す中でヨガに関心を持ち、副業としてインストラクターの活動を始められました。
やがて「自然の多い場所で暮らしたい」という思いが強まり、実家に近い湯梨浜町で地域おこし協力隊の募集を見つけたことが移住の決め手となりました。「公園でブランコをこぎながら湖を眺めるような、穏やかな時間が東京にはなかった」と池本さんは振り返ります。2021年に移住してからは、協力隊という立場を活かすことで、スムーズに地域に馴染むことができたそうです。
■湯梨浜町での活動
移住してから3年間池本さんの活動は大きく2つの軸から成り立っています。ひとつは、地域おこし協力隊としてのまちづくり活動、もうひとつは、ヨガ・ピラティスのインストラクターとしての健康支援です。
地域おこし協力隊としての挑戦
湯梨浜町では高齢化率(人口に占める65歳以上人々の割合)が33%を超え、人口減少が進行しています。多くの課題がある中、池本さんは「空き家活用」を担当し、地域資源を再生する取り組みを行っています。特に注目されたのが「リユーステーマパーク 空き家利活用イベント」で、このイベントは、空き家の処分に困る住民の声を聞いたことをきっかけに、4回にわたり企画されました。イベントではキッズフリマや器市、キャンプ用品のフリーマーケット、中古住宅販売会など、毎回異なるテーマを設定し、どれも「いらなくなったものを必要とする人へ手渡す」という目的のもとで実施されました。計4回行われたこのイベントは、多い時で700名もの来場者を集め、大盛況に終わりました。
イベント企画から運営までを一人で担った池本さんは、「東京で学んだ段取り力や接客経験が大いに活かせた」と語っておられました。また、月に1回の空き家相談会の開催や、町の「空き家・空き地情報バンク」を通じた情報発信など、住民の声に寄り添う取り組みも続けているとのことでした。
移住支援とコミュニティづくり
また、空き家を活用して終わりではなく、「そこに人が住み続けられる仕組み」をつくることが重要だと池本さんは語られました。そこで企画したのが移住体験イベント「ME TIME!(ミータイム)」です。これは、湯梨浜町での暮らしを体験し、ヨガや地域交流を通してリフレッシュできる時間を提供することを目的とするイベントでした。「地域の人と触れ合うことで、移住へのハードルは下がります。楽しそうに暮らしている人がいる町には、自然と人が集まるんです」と、池本さん。
現在は「とっとりくらしアドバイザー」としても活動し、移住者が定着できるよう継続的な支援を行っています。子育てとの両立については、「都会よりも家族や地域の方々の支援を受けやすく、自然の中で子どもがのびのび過ごせる」と話されました。仕事と家庭のバランスを取れるのも、地方ならではの魅力とのことでした。
■健康と幸せを届ける「iha(イハ)」
もう一つの軸である健康支援活動では、「iha」という屋号で栄養指導とヨガ・ピラティスを提供しています。興味から始めたヨガやピラティスが、いつしかインストラクター資格の取得につながり、地域貢献の手段となりました。
レッスンを通じて体の不調を抱える人と関わる中で「もっとサポートできることがある」と感じ、マッサージセラピストの資格取得を決意されました。さらに、栄養士としての知識を活かし、食事面からの健康サポートも始めています。
「自分の好きと得意を活かして、地域の人々の健康と幸せな暮らしを支えたい」と池本さんは話されます。地域おこし協力隊の任期後は、これらの活動を中心に事業を広げていく予定です。
また、池本さんの活動は町内にも広がりを見せています。ヨガ教室には地元の学校や企業の研修参加も増え、ヨガのイベント企画では地域のデザイナーや飲食店と協働することもあるそうです。「個人の行動が地域全体に広がるのがここの面白さ」と池本さんは話されます。今後は、移住者や若い世代の方々とのコラボレーションにも挑戦していく考えです。
■協力隊卒業後
地域おこし協力隊としての任期を終えた現在は、これまでの経験をもとに栄養指導・ヨガ・ピラティスの活動を本格化させています。
現在、食事・運動・心を一体化させた「パーソナルウェルネスクラス」を本格的に始めたところです。栄養学の知識を取り入れ、心身の両面から健康を支える仕組みづくりを進めています。
「地域の健康を支える"拠点"のような場所をつくりたい」と池本さんは意気込みを語ってくださいました。自分の得意分野を生かしながら、地域全体に健康の輪を広げ、湯梨浜をより豊かで幸せなまちにしたいとのことでした。
■「田舎には無限の可能性がある」
「人のニーズに合わせるよりも、自分の“好き”や“強み”を地域にどう活かせるかを考えることが大切です」と池本さん。ないものが多いからこそ、地方には新しい価値を生み出すチャンスがあると語ります。
例えば、交通の便が悪いという課題も、「車社会」の鳥取では、お客様が遠方からでも来やすいという強みに変えられます。地域の人々が顔見知りだからこそ、地域全体に評判が広がり、常連客が増えやすいのです。
取材中、池本さんは「この町では、人との距離が本当に近いんです」と笑顔で話してくださいました。まちなかで買い物をしていると、住民から「この前のイベント、楽しかったよ」と声をかけられることもあるそうです。
「自分の活動が地域の日常に溶け込んでいく感覚がうれしい」と語る姿に、地域で働く喜びがにじんでいました。そうした「この町ならではの可能性」を前向きに捉え、池本さんは日々、挑戦を続けています。
■キャリアは「点」ではなく「線」でつなげる
「これまでの人生で無駄なことはひとつもありませんでした」と池本さんは語ってくれました。大学で学んだ栄養学は、現在の健康支援活動に、アパレル企業で培った接客力やコミュニケーション能力は移住相談やイベント運営に活かされています。
それぞれの経験が今の活動の「線」としてつながっているのです。
最後に、未来を考える若者へ向けて池本さんはメッセージをくださいました。
「行動が未来を切り開きます。やりたいことは、まず口に出してみてください。」
池本さんの言葉には、単なるキャリア論ではなく"生き方"へのヒントが詰まっていると感じました。
自分のやりたいことを見つけることに迷う学生も多いですが、「まず小さく動いてみることで道が開ける」と池本さんはエールをくださいました。
その言葉に、私自身も"動きながら考える"という前向きな姿勢の大切さを実感しました。池本さんの生き方は、未来を模索するすべての人に勇気を与えてくれます。
*「発言は意図を変えない範囲で要約しています」

写真1 プレゼン資料を基に、分かりやすく湯梨浜町での活動を説明してくださいました

写真2 私たちの質問にも、とても丁寧に答えてくださいました

写真3 インタビュー後に、写真撮影に応じてくださいました

写真4 NHKに取材いただきました


